零の旋律 | ナノ

『協力してくれないか?』
 確か開口一番にそんな事を言われた気がする。相手が何者か噂以外たいして知りもしないのに、気がついたら二つ返事をしていた。
 そのことに俺は後悔していないし、それで良かったと思っている。

「ちぃっ……」

 忌々しいと悪態をつきながら扉が乱暴に開けられ、そして閉められる。
 曲りなりにも第二王子である俺の自室をノックもせずに開けてくる人物は一人しかいない。

「どうしたんだよ、カサネ」

 横になっていた身体を起こし、カサネの方へ向く――そこで俺の視線は一か所に集中する。

「少し油断しただけだ」

 素の口調でカサネが話しかけてくることはままあるが、それでも最初からカサネが素でいることは少ない。

「大丈夫なのかよ」
「だから最初にシオルの所へ来たんだろ……」

 カサネの上着の右袖が生々しく血で染まっている。血は滴っていないが、服のそれを見る限り、その怪我は決して生易しい物じゃない。
 苦痛を我慢しているのか、カサネの顔色は何処か悪い。血を流しすぎたせいもあるのだろう。

「治せ」
「はいはい、じゃあこっちにきて。って俺はさぁ治癒術師じゃないから応急処置程度しか出来ないぞ」
「構わない……。というか普通に治癒術師の元へ行くわけにはいかないからシオルのとこへ来たんだし」

 魔導師である俺は一応治癒術式についても勉強している関係で多少なりと治癒術も扱うことが出来るが、やはり治癒術を専門とした専門家には及ばない。元々治癒術は得意な分野ではなかった。
 だが、カサネにとっては応急処置が出来るだけで有難いのだろう。
 カサネは素直に俺の隣に座り腕をまくる。

「……随分酷い怪我をしたんだな」

 それは、服に隠されてわからないが、大分酷い。服が血で染まっている所以外目立った外傷がないところを見ると、上着だけ後から新しく来たのだろう。
 血を滴らせないためか包帯が幾重にも巻かれている。最初は純白だっただろう包帯も今は赤く変色している。

「油断したんだよ」
「お前が油断するなんて珍しいじゃないか」
「そっちの油断じゃない」
「まぁ深く詮索するつもりはないけど」

 治癒術を展開する。その際髪留めとして使用している赤い魔石が光をともす。魔導を発動している証。
 怪我をしている部分に手を当てて怪我を癒していく。

「ありがと」

 一通り手当てを終えるとカサネはお礼をいってから、俺の部屋に常備してあるお菓子を口に含む。

「勝手につまみ食いをするなよ」
「小腹がすいたんだよ……」
「休んでいくか?」
「……そうする」

 カサネは休養したい時、大抵俺の部屋で休む。俺の部屋が一番安全だから、らしい。

▼後書き
シェーリオルのことをシオルと呼ぶのはカサネだけ。
基本的に問題が起きたときは、シオルのところへカサネは行きます。
そのほうが安全で確実だから。
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