“策士カサネ・アザレア”第三王子エレテリカに忠誠を誓う存在。 「お前さ、また殺したんだって?」 ふと思い立ったようにカサネに問う俺に 「貴方も随分噂話が好きですよね」 カサネは何事もないように答える。ロッキングチェアに座りながらオレンジジュースを飲んでいる。 俺の部屋を段々カサネは我が物顔で使うようになってきている気がしないでもない。 「偶々耳に入ってな」 「……王子に仇名す者は全て殺すに決まっているでしょうに」 カサネは恍けたりはしない。俺とカサネは共犯関係にあるからだ。 「たくっ。全て殺して言ったら独裁者になるぞ、お前が――じゃなくてエレが」 全ての人が同意し一致団結するなんてあり得ない。表と裏が表裏一体なように。 味方と敵は常に存在して、味方だけになることはない。 敵が排除され続ければ味方が敵へかわるだけのこと。 「王子に被害が及ぶようなヘマを私がするわけないでしょう? 別に私は独裁で国を傾けようとは微塵も思っていませんよ」 「カサネ・アザレアの悪名は轟いているぞ」 「私の悪名が轟こうと構いませんよ。……もしそれが抑止力になるなら結構。ならぬのなら悪名のままに動くだけだ」 何度会話を重ねても、どうしてカサネがエレの事をそうまで心酔、盲目的に慕っているのか根本的な理由は教えてもらえない。 ただ、助けてくれたからと答えるだけ。まぁあのお人よしのエレなら何処かでカサネを助けていても不思議じゃないけれど、不思議なのはエレがそのことを覚えていないってことなんだよな。そしてカサネも覚えていなくていいという。いいや覚えていなくていいと。 「それに悪行だけをやっているつもりもない」 「そりゃそうだろうな。エレがそれを望んでいない」 沢山の人を殺し暴虐の限りをつきしていたとしても――それで国という全体でみれば、国が悪化することはない。エレが望んでいないからだ。 エレが住みやすい場所を作るためにカサネは動く。まぁ一気やれば暴動が起こることは間違いないから少しずつカサネは周囲を動かし、浸透させ、あたり前に変化させようとしている。 一部の既得権益や権力を誇示しようとする者にとってカサネの存在は目の上のたんこぶでしかないわけだが。エレに仇名す者はカサネの敵でしかなくなる。 「俺はエレテリカが望むことなら何だってするし、仮に望まなくてもエレテリカにとって有害なら始末するまで」 エレには滅多に見せないカサネの本性。俺の前では本性でいることの方が多いから慣れたものだけど。きっと初見の人のカサネのかわりように驚きを隠せないだろう。 「なら。もしエレが国を滅ぼしたいと願ったらその時はどうする――?」 わかりきっている答え。問いですらない。 「勿論、その時は歴史に残る大悪党になりましょう」 不敵に微笑むその姿は悪の化身その者だろうな。 それですら本人の望むところなんだろう、エレが望めば。 怜悧な頭脳を用いて不可能を可能へ導く存在。大それた言葉だって否定する奴らも勿論いる。 けれどカサネを目の前にすればそれが、その言葉が嘘じゃない事を否が応でも実感することになるだろう。 ▼後書き 一人称視点で語り部は第二王子シェーリオル。 エレテリカより多分カサネのことを色々知っている唯一の人物。共犯関係。 最後の台詞をカサネに言わせたくて書いた内容だったりします。 |