『もしも、君に』 *奈月と閖姫の話。 もしも君に―― 「ねぇ閖姫、もし閖姫に好きな人が出来たら、真っ先に僕に教えてね」 唐突に言った僕に、閖姫は豆鉄砲を食らったような顔をした。 「閖姫に好な子が出来たら僕に教えてね?」 微笑んだ僕に閖姫は苦笑いしながら、あぁと返事をしてくれた。 その時僕の頭を撫でてくれた。撫でられたその感覚が嬉しくて、自然と亜月を握り締める。そして約束だよと告げる。 「でも、どうして急にそんなことを?」 「んー気分。唐突に思ったんだよ」 「そうか」 「うん」 閖姫はそれ以上深く追求してこなかった。まぁして来た所で答える答えは決まっているんだけど。 「じゃあ、そろそろ夕飯だし、食べに行くか?」 「うん!」 僕は小食だし、実を言うとあまりお腹も空いてない。でも閖姫の誘いとあれば別。デザートは別腹的な感覚。立ち上がって部屋を出ようとドアノブに手をかける閖姫に僕は声をかける。 「ねぇ閖姫」 「何だ?」 閖姫は振り返り僕を真っすぐに見てくれる。 「大好き」 だから、閖姫が誰かの者になってしまうのなら、そうなる前に僕が閖姫を――。 人知れず亜月を握る力が強くなる。 ▼あとがき 奈月が口に出して言ったのは唐突でも、奈月はその言葉を唐突に思いついたわけではなく、元々心の中に仕舞いこんでいたもの。 亜月には色々秘密があって、その秘密を閖姫は知らないし、奈月は教えるつもりがないです。知った後の閖姫の反応を恐れているから。 亜月のことに勘づいているのは、学生では一人だけ。 |