零の旋律 | ナノ

『雨心』


 洗い流してくれればいいのに、この心も気持ちも全て。
 僕の濁り歪んだ心を浄化にしてくれたらいいのに。
 僕の沈んだ気持ちを代弁するかのように雨は徐々に強くなり、外で佇む僕の身体を濡らしていく。あぁ耳障りな音。雨に当たったところで僕の心は曇る一方。

「あははっ」

 乾いた笑い。涙の代わりの雨。泣いてはいけない。泣いたら涙の痕跡が残ってしまうから。
 誰にもばれたくはない。僕の心を貴方に知られたくない。
 十分ほど雨に当たっていた頃だろうか、閖姫が傘を持って走ってやってきた。

「奈月! 何やっているんだ、びしゃびしゃじゃないか」

 傘の中に僕を入れる。雨が僕から遠ざかった気分だ。閖姫のぬくもりが暖かい――悲しくなるほどに

「ちょっと雨に当たりたい気分だったんだよ」

 僕は笑顔で答える。何事もないように。

「気分って風邪ひくぞ」
「大丈夫、寒くないし部屋に戻ったらちゃんと乾かすから」
「ならいいけど」

 僕の口から出るのは嘘ばかり。
 だって、本当の事なんて閖姫に伝えられるわけがない。

「うん。大丈夫だよー、それより閖姫有難う。傘持ってきてくれて。満足したし戻ろうか」

 二コリと微笑む僕を疑わないで、僕の言葉が事実だと思って。
 貴方には僕の本心は伝えられない。貴方と離れたくないから一緒にいたいから。
 僕の心がどれ程壊れても、僕は狂えない。
 狂う事が出来たらどれ程いいのか、どれ程楽なのか――そう渇望してしまう程に。例え周りから見れば充分狂っていたとしても。

「あぁ。そうだ夕飯は自炊しようと思うんだが何がいい?」
「カルボナーラ」
「わかった」
「わーい、閖姫のカルボナーラ楽しみ」

 軽く跳ねる僕。笑う閖姫。
 それでいい。僕の心は知らないで、知ってしまったら閖姫。貴方は僕の目の前からきっといなくなってしまうから。

 多分とっくの昔から、そう閖姫と出会う前から僕の口から出る言葉は嘘ばかり。


▼後書き
唐突に雨と奈月を書きたくなり衝動的に書いたもの。
奈月は閖姫に対して、深層部分は見せません。自分の心を知られるのが怖いから。
けど、閖姫に対しての笑顔は全てが嘘じゃなく事実でもある。







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