零の旋律 | ナノ

『問われるのは、求めるのは』


※李真と奈月の話
 
 抱きしめる感触。何時もと変らない。
 安定を求め、落ち着かせ、狂わせる。深く、深く。深淵まで垂らした糸。

「偶に想うんですけど――、私がそれを考えているからでしょうけど」

 紡がれる問い。

「奈月って閖姫に何を求めているんですか?」

 確信をつく問い。

「僕は閖姫が入ればそれでいいんだよ」

 笑顔で答える。狂って歪んで、何処までも純粋で。

「本当に――?」
「僕は閖姫が入ればそれでいい」

 決まった応えのように、感覚を開けることなく即答する。

「なら、何故亜月人形を大切に握っているのですか?」

 顔が近づけられる。瞳に姿が映る。亜月が奪われる。

「!! 亜月を返せ!」

 袖口に仕込んであるナイフ。銀色に刃が輝く。一閃する。
 容易に交わされ、かすることもない。

「ほら、亜月をとっただけで激昂する。閖姫だけ入れば本当に奈月はいいんですか?」

 亜月をみる。変哲のない唯の兎の人形。

「亜月の何処に執着を……」

 止まる声。強く握らないとわからない感覚。違和感。
 例えそれが何であっても“普通なら”気がつかれない。唯、感触が違うと思ってもその程度。
 だが、それが何か“李真だから”こそ正体に勘づく。

「……奈月、もしかして貴方は」
「亜月を返せ!」

 二撃目。容赦も躊躇もない一閃。

「あのさ奈月。何お前ナイフなんか向けてんだ?」

 現れる本性。奪われていたナイフ。刃が二つに折られる。
 そこで気がつく。李真が黒い手袋をはめていた事に。

「っ――!! 亜月を返せ」

 展開術式を紡ぐ。奈月にとって亜月人形が唯一の『    』

「ほら」

 展開術式もかわす。奈月へ差し出される亜月人形。
 奈月は亜月人形を抱きしめる。
 強く、強く。心が落ち着く。深く浸食される。

「良かったあ」
「……良かったって、人にナイフ向けといてか?」
「…………」

 冷徹な笑顔。柔和な笑顔。
 向けられる二つの笑顔に怯えないように強く睨み返す。


▼あとがき
一文を短く区切った文体で書いてみたくなり書いてみたもの。
李真はつい、奈月をからかって(?)遊びたくなります。
多分、奈月がナイフを向ける回数が一番多いの李真なような。







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