『曖昧距離』 ※閖姫と十夜の話 閖姫と奈月を見ていると思う。危ういと。 別に忠告してやるつもりはなかった。けれど、偶々閖姫一人で歩いていたとき、自然と俺は閖姫に話しかけた。 「閖姫、お前。奈月に近づきすぎるなよ?」 突然の言葉に閖姫は顔を顰める。当然だろう、とり方によっては悪口にも聞こえるのだから。というかそうとしか聞こえないよな。 「十夜、それはどういう意味だ?」 「そのままの意味。奈月に深入りするな。奈月の内面にまで踏み入れたら後戻りできなくなるぞ」 「何がいいたいか理解出来ない」 「奈月を本当の意味で愛さないなら、愛せないなら。それ以外の感情で動くなら奈月に必要以上に近づかない方がいいってことだ。奈月が、じゃない。お前が」 閖姫は何も言わない。俺の言っている言葉の意味が理解出来ないのもあるのだろう。 いや、むしろ理解したからこそ何も言わずにただ俺の凝視しているのかもしれない。 どちらにしろ、これは忠告だ。 「亜月のことを“ただの人形”だと思っているのなら、それ以上深入りするな」 閖姫が奈月に優しくすればするほど、閖姫が奈月の傍にいればいる程――。 「閖姫っ―!」 タイムリミットか。俺の後方から奈月がてこてこ小走りしながら閖姫に向けて満面の笑みで近づいていく。 俺の傍を通り過ぎるその時 「閖姫に余計なことを言うな。もし告げるのなら――殺すよ?」 奈月は俺に耳打ちした。 「閖姫、どうしたのー?」 無邪気な笑顔で、演技ではないそれで奈月は閖姫に言葉をかける。 「十夜と世間話をしていただけだ」 閖姫は本当のことを答えない。 「そっか。ねぇ閖姫、買い物に行かない?」 「この仕事終わったらいいぞ」 「うん!」 「ん。じゃあな十夜」 「あぁ」 これ以上奈月が一緒の場所では話せない。それに奈月がどういうつもりだったとしても、だ 亜月の真相を俺は閖姫に伝えるつもりはない。 ▼あとがき 奈月と十夜は過去に色々あった関係で、閖姫に十夜は忠告するって場面が書きたかった。 十夜は亜月の秘密を知る唯一(生徒では)の人。誰にも口外するつもりは元よりないから、閖姫にも真意は伝えないけど。 |