『結局は』 *閖姫と冬馬の話 「これ、宜しく閖姫君」 「これも宜しく閖姫」 「ちょっとお願いごとがあるんだけど頼んでも大丈夫かな?」 そう言って、事あるごとに頼みごとを拒否権を発動する間もなく次から次へとやってきた。 現在の俺の手には書類が沢山。えっと……是は何処に持っていくんだっけか。 一片に大量なことを頼まれても、俺の処理能力の限界を迎えるぞ。と前に冬馬に愚痴ったら「あはは、何だかんだ言いつつも、閖姫は仕事を真っ当するからね。それほど信頼が厚いってわけだよ」と言われたことがあったっけか。 因みに同じことを李真に愚痴った場合「閖姫なら問題なくこなしますから大丈夫ですよ」と笑顔で言われた(そして手伝ってくれなかった)。 「さて、とりあえず今度の行事のことか」 閉鎖的な学園だが、この学校でも外部との接触が零、というわけではない。文化祭等限りある行事に限っては外部の者がやって来ることが可能だ。 まぁ、文化祭って名前にはなっているけれど、実際はただの実力お披露目会。 日ごろの自分たちの実力を誇示することで、この学園は凄いんですよってアピール。 「あれ、今日も頼まれごとか?」 廊下を歩いていると冬馬がやってきた。その隣には珍しく李真がいないし、女性たちもいない。 「見ればわかるだろ。というかお前珍しいな」 「何が?」 「お前が李真も女も連れて歩いていないなんて」 「あのさぁ、閖姫。俺を見境がないような誤解を招く言い方は止めてもらえるか?」 心外だ、という表情をしている。でもいつもは誰かしら冬馬の隣にいるから珍しいのは事実なんだが。 「まぁ、俺が一人でいるのは勿論。君に用があって、というわけだが」 何か嫌な予感がした。今すぐ駆け抜けて冬馬の元から去りたい。しかし大量の書類を持っている今では冬馬から逃げきることは、酷く残念ながら不可能だろう。 「嫌な予感しかしないが、あえて聞いてやる。何だよ」 「勿論。一緒に校則違反しませんか?」 別に、校則は破るためにある! とか高々いう程でもないし、校則は守るためにある、破るなんて言語道断とか言う性質でもないんだが…… 「お前、俺の現状を見てから言え!!」 「やっぱ? でも一人でやっても詰まらないから」 そんな理由で巻き込むなよ。たく、冬馬は俺が引き下がるまで待つんだろうなぁ。 「仕方ない。俺の仕事手伝え。その後で手伝ってやるから」 「えー面倒」 「面倒じゃない。一人より二人だ。それに第一見た目と反して成績優秀なお前なら簡単だろ」 首根っこを本当は掴んで引きずりたいところだが、書類が邪魔をして出来ない。 「見た目と反してって酷くね?」 「事実だ」 渋る冬馬を本当なら殴り倒したいところだが、書類が……以下略。 「わかったよ。じゃあそっちの仕事終わったら遊びに付き合って貰うからね」 「はいはい」 何だかんだいって仕事がこうして増えていくんだよな。 あぁ、冬馬のは仕事じゃなくて遊びか。一体今度は何を考えているのだが。 しかし狡猾な冬馬のことだから、バレることはしないんだけどな。基本的には。 ▼あとがき 巻き込む側と巻き込まれる側。閖姫視点で閖姫と冬馬の会話。校則違反は主に学園の外に出歩くこと。 |