零の旋律 | ナノ

『あなたが障害になるなら』


*佳弥と李真の話


「貴方が障害になるなら、殺してしまいましょうか?」

 本人を目の前にして言うことだろうか、僕は首を傾げる。
 その様子が可笑しかったのか、彼は一笑した。
 だから、僕は彼に対して口を開く。

「ってか、君は自信があるんじゃなかったの?」

 何をとは問わない。

「ええ、勿論自信はありますよ。けれど、確証は何処にもない」
「前に冬馬も似たようなことを言っていたね。李真。でもその言葉の意味はどうやら冬馬とは違うようだ」
「でしょうね」

 あくまで冷静。時々僕は李真の本性は別にあるんじゃないか疑う。それは憶断で確証で確実だと思う。

「でも、だからといって邪魔になる存在を許すほど心広いわけじゃない」
「僕が、冬馬と昔からの知り合いだからかい?」
「知り合い、以上でしょ? 佳弥」
「あははっ。まぁそうだけれど、所詮それはただの形式ってか、取り決めのようなもの。そんなもの無碍にしようと思えば、簡単に出来る。第一冬馬は家出中の身分だ」

 元々冬馬は貴族、それも大貴族と呼ばれる程の所の生まれだ。だからこそ、私とも繋がりは当然ある。
 まぁ最も家出中だからといって冬馬の身分が剥奪されているわけではない。
 といっても、私が何者であるか李真には告げていない。冬馬が話したとは到底思えないし。
 私の正体を李真は知らない。けれど、それでも確信しているんだ。私と冬馬がただの知り合いではないことを。だからこその“保険”か。

「まぁ、そのような回答が来るとは思っていたけれど」
「で、君は僕をどうしたいんだい? 殺したい? 冬馬に近い存在として」
「どちらだと思います?」

 含み笑いを見せる李真に、僕は後ろが壁じゃなかったら後ずさりをしたい気分になる。もっとも、後ずさりしたらそこで負けたような気がして嫌だけど。

「君は」

 この先を言ったら、首元に絡みつく糸が僕を殺してしまいそうだったけれど――

「冬馬は飢えていて、君は歪んでいるんだね」
「……」

 呆然とした表情に李真はなる。

「冬馬は求めていて、君は歪(ひず)んでいる」

 その次は笑っていた。

「まぁ、そんなところだろうね。似ていても所詮は別物。同じ言葉で括りきることは出来ない。もっとも、もし同じ枠を作るなら、冬馬と同じ枠にいるのは私じゃなく、奈月でしょう」
「だろうね」
「面白い回答が聞けたから、よしとしますよ。首の皮一枚繋がったね」

 僕の首元に絡みつく糸は李真の意思によって剥がされた。李真の気が変わればいつでも僕を殺すことは容易だろう。
 ひょっとしたら李真は、閖姫は十夜よりずっとずっと強くて、そして危険なのかもしれない。僕は人知れずため息をつく。
 別に僕だって真っ当じゃないよ。
 歪んでいるよ、けれどね――それでも、君ほどじゃないと言いたいね。


▼あとがき
 タイトルは李真だけど、視点は佳弥。
 佳弥と李真のある日。李真は本性と表の顔の中間付近。
 李真は別に自分の元から冬馬が離れていくとは思っていないし、そう確信している思いは冬馬より上だけど、だからといって態々邪魔になるかも知れない存在を放置しておく程でもない。特に佳弥に対しては。その辺の取り巻きだったら李真は放っておきます。







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