零の旋律 | ナノ

『杏仁?』


 目の前の出来事に対応しきれずに、私は冬馬に質問することにした。

「冬馬、何をしているんですか?」

 この作り上げた偽りの人格は周囲に馴染むため、渡り歩くための処世術。

「ん? 見ての通り料理」
「料理はわかりますが、一体何を作っているんですか?」

 冬馬は見た目に似合わず料理上手。但し滅多なことでは料理を作らないけれど。
 確か理由は、「俺が作らなくても女の子たちが俺に手料理を振舞ってくれる」でしたかな。

「李真ってその口調と容姿に似合わず料理壊滅的だよな」
「料理最中のを見ても完成品が何になるかわからない程度に壊滅的ですね」

 まぁ、つまり全く出来ないわけでして。

「……これは寒天? と書いてあるけど一体何に使うの?」

 寒天ってそもそも食べられる物なのですか? って聞いたら多分目を丸くされるから、ナチュラルに包んでみた。

「わからないなら。暫く待っていろよ、何が出来るか」
「そうする」

 ……一体何をしているのでしょうか。冬馬は。生クリームとか。杏仁霜とか初めてみたのだけど、使用方法が全く不明すぎる。
 何か殺人兵器でも作るのでしょうか……? いや料理だから違いますね。
 って今度は加熱? 加熱した後は冷却、わけがわからない。

「冬馬、そろそろ本当に何を作るのか教えてほしい……」
「後二時間程度したらわかるよ。といっても初めて作ったから、出来はわからないんだけど」
「食べ物……?」
「料理しているんだから、あたり前だろ」

 私は料理出来ないから、知識もない故、言われてもピンとこないのですが。
 別にやらないから出来ないのであって、チャレンジしたら出来ると思うけれど。

 二時間経過した。そろそろ完成しているんですよね。怪しい料理。

「さて、その間に佳弥たちでも呼んでくるか。俺は準備してから閖姫んとこ行くから、李真。佳弥を呼んできてくれ」
「わかりました」

 佳弥の部屋へ向かう。佳弥の部屋は、佳弥の事情があるため、特例で一人部屋。佳弥は呼ぶと暇だったのかすぐに出てきてくれる。因みに佳弥はワイシャツのボタンを第三ボタンまで開けた恰好。

「佳弥、冬馬が何か怪しいことをしていて、完成するらしいから部屋へ」
「はい? 一体何?」
「さぁ。よくわからない」
「まぁ、冬馬のすることなら面白いだろうから行くよ。ちょっと待ってて」

 そう言って佳弥はワイシャツ姿からブレザーに着替えた。男装少女だけど、あまり男装を徹底しない故に、時々危うい時がある。例えば先刻とか。なのに何故周りの人たちは佳弥の性別に気がつかないのか気になりますね。
 もしも、冬馬が佳弥と知り合いでなかったとしても、冬馬は佳弥の性別に気がついたと思う。

 でも――冬馬は人を見る目はないと思う。俺を助け出したのだから。俺に手を差し伸べたのだから。俺に目をつけられたのだから。俺と行動を共にしているのだから。

「冬馬、一体何の怪しいものを作ったんだい?」

 開口一番、佳弥がそういうと冬馬は怪訝そうな顔をして、私を見ている。

「李真。お前佳弥に一体何を告げたんだ?」
「私が見た印象そのまま」
「……閖姫、冷蔵庫から取り出してくれ」

 あきれ果てた冬馬は自分で歩く気力もないのか人任せ。閖姫は特に文句も言わずに、勝手に冷蔵庫から、例の料理を取りだした。

「って、別に怪しくもないじゃん李真」

 真っ先に覗いた佳弥が私にそういってくる。

「李真も見てみるといいよ」
「そうします」

 佳弥に促されるままそれを見ると――

「杏仁豆腐……」

 完成された品は杏仁豆腐だった。それは私の好物。唯一と言っても過言ではないそれ。

「お前、まさか本当に完成するまで気がつかなかったのかよ」
「料理出来ないんだから、あたり前でしょ」
「僕だってそれくらいわかると思うよ」

 追い打ちをかけないで欲しいですね。奈月。

「偶には、作ってやろうかと思って」「では、明日と明後日も宜しくお願いします」
 一口食べてみると、美味しかった。ほのかに広がる味わい
 冬馬が作ったからか、わからないけれど市販のよりずっと――。

「うん。やっぱり冬馬の料理は美味しいね。勿体ない、君がこんな不良じみてなかったらよかったのに」
「おい、佳弥それはどういった意味だ」
「そのままの意味なんだけどな」
「お前に今度料理の仕方特訓してやるから、こい」
「えー、僕は食べる専門なんだけどなぁ」

 文句を言いつつ佳弥は楽しそうにしている。冬馬の杏仁豆腐を食べてたくなって佳弥の分を密かに頂いた。

「あれ? 僕の杏仁豆腐……って李真! とったね?」
「えぇ、頂きました。御馳走さまです」

 空になったカップを見せると佳弥は落胆している。まぁこの美味しさなら、落胆する気持ちわかります。私が取ったのですが。
 普段は一日一食が普通な奈月も綺麗に食べているし。閖姫に至ってはお代わりがないのかと冬馬に文句を言っている。



▼あとがき
 李真の杏仁豆腐話。李真は料理がからっきし。因みに佳弥も料理は出来ません。
 閖姫は料理研究部という部活所属。一番料理上手は多分閖姫。奈月は作らないから謎な領域。久遠は時間がかかるが、料理は出来る。十夜は大雑把にならきっと出来る。
 何故か創作設定で料理の出来るか出来ないかは決まっている創作が多い。







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