陽の光の差し込む部屋、その中央にある机には、本が何冊も積み重ねられていた。本で出来た塔に隠れるように机に向かう人物が二人。 一人は長い髪を床に垂らし、ゆっくりとページをめくっていた。さほど興味のある内容ではなかったが無いよりはマシである。事務的にページを繰りながら、時折半分塔に隠れてしまっているもう一人の人物に視線を向ける。 さっきまで真面目に教材に向かっていたと言うのに、いつの間にかその眼差しは窓の外へと向けられていた。眩しげに細められた金の瞳の先を追えば、広がる青にジギタリスもその両目を眇めた。 「たまに、空が青いことを忘れそうになる」 ふいに聞こえた呟きに振り返ると、窓の外に向けられていた筈の金の瞳とぶつかった。 「ほとんどいつも、曇りのようなものだからな」 ――サングラス越しの世界は。 口には出さずとも、そう言っているようにジギタリスには聞こえた。 「……それで?」 ゆっくりと瞬いて、ジギタリスは先を促した。いつも通りの無表情でカイラを見つめ返す。 「別に……ただ、それだけだ」 ほんの一瞬表情を消して、カイラはかぶりを振った。ペンを取りまた手元の教材に視線を落とす。 それからしばらくは常と変わらぬ勉強風景が続いた。時折ジギタリスの講釈が響く以外は静けさに包まれていた室内には、いつの間にか夕陽が差し込んでいた。 「ああ、もうこんな時間か。今日はここまでだな」 そう言ってジギタリスは読んでいた本をパタンと閉じた。予定した部分も終えたことだしちょうど良い。 「ジギタリス」 「なんだ?」 立ち上がろうとした所を呼び止められ、もう一度座り直す。だが、それ以上カイラから言葉は発せられない。 「カイラ?」 ほんの少し怪訝そうに眉をひそめ、積み上がった本の影に隠れてしまっている部下を見やる。促すように名を呼ぶも、変わらず沈黙したままだった。 「どうした。今日のお前は何だかおかしいぞ」 「……おかしい。ああ、そうかもしれない」 ようやくカイラが口を開き、些か乱暴に立ち上がる。その振動でぐらりと本の塔が揺れ、バサバサと音を立てながら机や床に散らばった。 視界が開けた先、机の向こうでカイラが笑っていた。口元だけで。いつの間にかけたのか、目はサングラスに隠れて見えない。 「……カイラ?」 「ここしばらく慌ただしくて、一日のほとんどは誰かと一緒だっただろう。だから、かもしれない」 サングラスの向こうで両目を眇め、カイラはガラス越しの夕焼けを見つめた。 「眩しすぎる」 何が、とは聞かなかった。答えなど求めていないし、きっとカイラ自身もわかっていない。 だから、その代わりにジギタリスは短く告げた。 「少し出てくる。……明日も、同じ時刻に」 返事は待たない。分かり切っている。 今度こそ立ち上がり、ジギタリスは夕焼けに染まる部屋を後にした。 END ------ 同盟にて和泉様にジギタリスとカイラの小説を書いて頂けました。 カイラの特徴である勉強とサングラス両方を取り入れてくれて一度で二度美味しい美味しさを味わえましたっ…!!ジギタリスのカイラに対するさりげない優しさやカイラの想いが伝わってきて終始ニヤニヤしていました。 一つ一つのさりげない描写や心境描写と情景描写が絡まった描写が凄く好きで、特に最後の“返事は待たない。分かり切っている。”の部分の表現が好きです…!! この度は書いて下さり有難うございます。 |