「貴方は僕を愛してくれるの?」 かれと初めて相対した時に走った衝撃は忘れられない。 全身がぶわりと総毛立つようなある種の威圧を、自分とそう変わらないであろう小さな身体から感じたのだ。 薄桃色の長い髪の奥、真っ赤な左目が射抜くようにこちらを向いていた。そこに映し出される純粋な殺意が自分の好奇心を刺激するのを感じた。 同時に垣間見える寂しがりなかれの姿を、しっかりと、頭の片隅に閉じ込めて――。 * 透明な窓ガラスの外の滲む赤を何とはなしに見上げると、かつての思い出が脳裏を掠める。バリタは手の中のマグカップを持て余し気味に指先でなぞり、意味のない溜息を吐いた。 「何してるの?」 ふと声をかけられる。 見返すと、桃色の長髪をした細身の人影が、バリタの隣に立っていた。 「んーん。ぼうっとしてたの」 「夕焼けがどうかした?」 「えとぉ……どうってわけじゃないんだけどねー?」 バリタは可愛らしいつくりの顔をやや困った風に染め、こてりと首を傾げた。長い緑の髪が肩からさらりと流れる。 言いよどむバリタに対し、奈月はつまらなそうに唇を尖らせる。 「なに。僕をほったらかしにしてぼーっとするなんて許さないよ」 「そんなじゃないよぉ、なづっちゃんは寂しんぼさんなんだからぁー」 「からかわないでよ!」 ぷくっと頬を膨らませる奈月の愛らしさに、思わずバリタは微笑んだ。繊細で脆弱で鋭利な感情――そんな触れやすい奈月の精神の針が、バリタはわりと好きだった。愛されたがりの寂しんぼさん。その気持ち、分からないでもないよ、と。 「えへへー」 バリタがあからさまににやにやすると、奈月は不審げに眉を寄せた。 「気持ち悪いよ」 「こんなに可愛いぼくに向かって、それはひどい!」 「自分で言うあたりおかしいよ」 「なづっちゃんに認められるなんて、ぼくも捨てたもんじゃないよねぇー」 けらけら。 奈月はますますふくれっ面になった。 「もう、知らない。そんなふうにはぐらかすんだったら、いつか僕、バリタだって殺しちゃうんだからね」 「いいよ」 バリタは囁くように即答した。 そっぽを向いた奈月の横顔が、訝るように向きなおされる。 一歩、バリタは距離を詰めた。少しだけ高い自分の背を屈め、奈月と間近から視線を合わせる。 カップの中のココアが少し波立った。 強烈な赤は逆光となって部屋を黒く塗りつぶしていく。 バリタは口角を持ち上げる。 「お前になら、一回くらい殺されてみるのも悪くないね」 温い甘さが、二人の間に香る。 奈月は見開いた瞳を、ゆるやかに閉ざした。長い睫毛が震える。それから小さな呟きが漏れた。 「それなら、いい」 白い頬に朱が差したのは、夕日の魔法か、それとも。 バリタは喉の奥で笑いを転がしながら、身体を下げてくるりと、窓ガラスにもたれかかった。 「空見てるのも飽きちゃった。なづっちゃん、何かして遊ぼ?」 「え、いいの?」 「ぼくだって、暇してただけたもんね」 言い、カップに口をつけると、温度の下がったココアが喉を通り抜けた。 けれどその甘さは、それほど不快ではなかった。 ------ 昏様宅の三万打記念フリーリクエスト企画にてバリタさんと奈月(D×S)のコラボで仲良しをリクエストさせて頂きましたら、愛らしさ万点の大好きすぎる小説を頂けました。 バリタさん大好きです…!!バリタさんと奈月の会話がいとおしいです。会話や描写の空気、雰囲気が言葉に表せない程大好きです。と、特に「いいよ」の下りが大好きです。 バリタさんが「なづっちゃん」呼びして下さっていて、御馳走様です、状態です…!! この度は素敵なコラボ小説を有難うございます。そして三万打おめでとうございます! |