零の旋律 | ナノ
V



「カサネって……主の依頼人ですよね? 第三王位継承者の側近っていう」
「えぇ、そうですよ」
「でも、その人も物好きですねー」
「まったく気味が悪いですよ。主に精神的苦痛の慰謝料も請求したいくらいです」
「ヒースは本当にその人が嫌いなんですね。主、ヒースもこう言ってますし、さっさと問題のブツを処理してきてくださいよ」


 非難するような二人に、アークはがっくりと肩を落とす。もっとも、彼等の機関銃のような毒舌は、今に始まったことではないのだが。

 それでも、いつまでもやられるだけでは、レインドフ家の名が廃る。たまには仕返しをしなければ割が合わない。アークは「ったく、しょうがねぇなぁ……」と踵を返した。

 これに調子を狂わされたのが、ヒースリアとリアトリス。いつもなら逐一ツッコミが返ってくるのだが、今回はそれがない。それが却って新鮮で、同時に少しの違和感を覚え、ヒースリアは眉間をひそめ、リアトリスはきょとんと目を丸くした。

 するとアークはわざとらしく、思い出したように足を止め、振り返る。そして、ニヤリと口元を引き上げた。


「そうだ、カトレアも来るか?」
「え?」
「ちょっと、主! カトレアを危険な目に遭わせたら許しませんよっ!」


 アークの発言に、リアトリスは烈火の如く怒り出す。カトレア至上主義な彼女は、小さなかすり傷一つでも許さない。例の宅配物に不信感を抱いているため、彼女のこれは至極もっともな反応だった。

 だが、事実を知るアークは、そんな彼女を受け流すように、しれっと言い放つ。ただ単に、庭の手入れ作業の休憩をするため、カトレアをお茶に誘っただけなのだから。


「だから、カトレアと二人で処理するんじゃねぇか。とびきり美味いガトーショコラをな」
「ガトーショコラ……?」


 予想に反して返ってきた単語に、リアトリスは再び目を白黒させる。だが、その意味を認識すると、今度は別の意味で怒り出した。


「主、ずるいですー! 私も食べたいっ!」
「何言ってんだ。ヒースもリアトリスも、処理は俺に任せるって言っただろ」
「確かに言いましたが、それとこれとは話が別です。この私を無視するとは、最上級の侮辱行為ですよ」
「ほらほら、主! さっさと準備してくださいよ!」
「だから、何で俺なんだよ!」
「貴方が私たちの主だからです」
「理由になってねぇー!」


 アークの叫び声がこだまする。だが、いくら嘆いても状況が変わることはない。料理人を雇うまでは。

 それを表すように、リアトリスはカトレアの手を握って立ち上がらせ、アークを追い払うように急かしている。カトレアは嬉しそうに笑みを溢すだけ。そしてヒースリアは、チクチクと言葉でアークを責め立てた。

 そんな彼等――主に、ヒースリアとリアトリス――を恨めしそうに見据えながら、ティーセットを用意するためにアークは一人踵を返す。


(なにがなんでも料理人を雇ってやる……絶対に雇ってやる!)


 それからしばらくして。美しい庭園を背景に、和やかなお茶会が開かれた。

 そんな彼等の間を、一陣の風が流れる。より一層強固なものとなった、アークの思いをひっそりと乗せて。


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同盟にて藤道 誠様にFragmentからレインドフ家の四人を書いていただけました…!

仄々とした日常風景素敵過ぎます><
面白い内容に、何度読んでも全く飽きません…!むしろ読み返す度に新しい発見面白さがあって奥深いです…!
リアトリスとヒースの遠慮も容赦のないものいいとノリのいい会話に楽しく何度も笑ってしまいます。カサネの贈り物で仕返しするアークが何処となく可愛らしいです…!そしてカトレアが癒しです…!!

この度は小説を書いて下さり有難うございます。


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