零の旋律 | ナノ
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 うっかり料理人を殺してしまい、残った人間の中で最も料理が上手い、という理由で、不本意にも料理を振舞っている彼。「料理人が欲しい」と強く思っているはずが、その一方で、今のこの状況にすっかり順応してしまっているからだ。

 その時、この花園に来客が現れた。


「相変わらず、主と花の組み合わせ程、不釣り合いなものはありませんね」


 やって来たのは、一人の青年。にっこりと笑みを浮かべる彼の顔は、目を見張る程に端整だ。だが、その口から吐かれる毒舌は、かなりの破壊力を持っている。

 そんな彼の言葉にいち早く乗ったのは、声を掛けられたアークでは無く、何故かリアトリスの方だった。


「あ、やっぱりヒースもそう思います?」
「えぇ、もちろん。ですが、あそこの毒々しい花壇だけは、主にぴったりですけどね。ペットは飼い主に似ると言いますが、植物も同じではないかと思ってしまう程です」
「あ、他にもこんな言葉もありますよ。『類は友を呼ぶ』!」
「リアトリス、それは少し違いますよ。それでは、主と一緒にいる私たちまで毒になってしまいますから」
「あー……それもそうですね。失敗失敗」
「てめぇら、いい加減にしろっ!」


 爽やかな笑みを浮かべるヒース――ヒースリアと、カラカラと笑うリアトリス。この二人はアークを弄り倒すのが趣味、と言わんばかりに結託している。しかもこんな風に主が声を荒げても、彼等はどこ吹く風で聞き流すばかり。むしろ、それすらも楽しんでいるように見えるから性質が悪い。

 ちなみに、二人の言う「毒々しい花壇」とは、トリカブトなどの毒を持つ植物の花壇のこと。薔薇やアジサイ、ストックにマーガレットなど、様々な花壇とは一線を画する雰囲気は、そこだけ別世界を思わせる。

 話し始めるとキリがない二人に、これ以上は付き合っていられない。そう判断したアークはヒースリアを振り向くと、ため息交じりに声を上げた。


「で、何か用か?」
「おや、用が無ければ来てはいけないのですか? 冷たいことを言う人ですね」
「用件が無い限り、俺はお前を庭で見たこと無いぞ」
「まぁ、否定はしませんけどね。たまにしか来ないことは確かですし。主宛に宅配物が届いたので、わざわざ私が伝えに来たんですよ。という訳で、その分の手当を要求します」
「何が『という訳で』だ。そんな要求が通るか! で、俺宛に宅配物って何だ?」


 ヒースリアの言葉に、アークは首を捻る。
 業者が食品を届けてくれる日だったか、と一瞬だけ思ったが、すぐにそれは否定された。今日はその日ではないし、もし仮に業者だったとしたら、ヒースリアはそれを言うはずだ。『主宛に宅配物』なんて表現はしない。

 アークがなかなか答えに辿り着けずにいると、痺れを切らしたようにヒースリアは口を開く。不可解そうに、眉間にしわを寄せて。


「カサネ・アザレアからです。主、いつの間にそんな仲になったんです?」
「カサネから……?」


 その名を聞いた瞬間、アークはあの日のことを思い出す。

 カサネに仕事の報告をするため、彼が取ったホテルに呼び出された時の出来事。その時に食べた、あの絶品のガトーショコラ。

 確か彼は、人数分をレインドフ家に送る、と言っていた。カサネからの宅配物、というのであれば、それ以外に考えられない。

 ようやく一人納得したアークが口を開こうとするも、今回もリアトリスに先を越されてしまう。


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