ネクストセレクト 自分の呼気が乱れるのを感じながら、奈月はナイフを握る手に力を込めた。周囲はぐるりと自由に張る枝葉ばかりで、どこぞの山道らしいそこは動くにも動きづらい。と、している間にも青白い電光が奈月の視界に弾けた。とっさに体を捻り飛んでくる人影を避けた――『彼』が持つレギュラータイプのスタンガンの狙いから逃れるために。 「あーもう、ちょこまかうっさい!」 アルトの声。長い鮮やかな緑の髪が風に踊り、踊るように回転し向き直る脚はミニスカートと二―ソックスに包まれている。少女の姿をした少女でない男……それが今奈月と相対している敵だった。 「おとなしく捕まってよねぇっ」 「やだよ。大体、貴方誰なのさ!」 「ぼくはみんなのアイドルだもん!」 「ふざけないでよ!」 会話と同時に奈月のナイフが敵へ向かい、ひらりと避けた彼がまた電光を放ち、一進一退の攻防が体力だけすり減らしていく。 「めんどくさいなあ……っ」 少女のような男が苛立たしげにつぶやく。一瞬だけ隙を見つけ、奈月はナイフを振るとすぐ逆の手で敵のスタンガンを叩き落とした。鈍い音。半歩後退する敵。そのまま返す手でナイフを振り下ろそうとした――が、 「あっ。なんちゃって」 ガキン 何かが、ナイフを押し留めた。――特殊警棒。 「は……?」 可愛らしい顔が目前でにいっと笑う。瞬間、青白い火花が警棒の先端から空中へはじき出た。 「ッ!!」 奈月はすぐそこから離れる。敵が握っているのは特殊警棒型のスタンガンだったようで、また広がった間合いに奈月は舌打ちをする。 ――いきなり放り込まれた見知らぬ場所でいきなりスタンガン持った女男といきなり戦闘する羽目になるって、僕はいったい何に巻き込まれてるっていうの? 「さ、て、そろそろゆーこと聞いてもらおっかな?」 「嫌だよ。僕は貴方に従う義理なんて持ってない」 「なくてもいーもん」 警棒を振りおろし、無邪気に敵が近づいてくる。木の幹が背にぶつかった。面倒くさい、と奈月もまた苦々しく表情を曇らせる。 距離が縮まる、その時。 「レディーに手を上げるとは感心しないね、ボク?」 「!」 敵のその向こうでよく知った声がした。 「誰っ――!」 振り返る敵に蹴りが飛び込む。緑の髪がば、と散り、勢いよく彼は木の一つに叩き付けられた。 それをした人物は、やわらかな微笑を浮かべ奈月の元へ歩み寄る。 「大丈夫かい、奈月」 「佳弥!」 プラチナブロンドの王子然とした長身の彼(?)は、奈月の知り合いで『好き』の部類に入る人。見知らぬこの場に自分の知る人物が現れた、それだけで奈月の心は安堵に包まれた。 奈月は跳ねるように佳弥の腕の中へ飛び込んでいく。 「佳弥! なんで僕たちこんなとこにいるの? なんであいつ、襲ってくるの?」 「それは僕にも今一つ分からないな――けれど、まずは」 佳弥が静かに視線を動かした。その先には、先程蹴り飛ばされた敵が片手で髪を整えて立っている姿があった。 「もう! 髪も服も汚れちゃったよっ」 ぷうっと頬を膨らませる少女のような男。うまく受け流されたようだと佳弥が呟いた。 「ひとまず、あの男を倒さなくてはいけないようだ」 奈月を守るように佳弥が敵に向き直る。敵の男はそれを見、 「何すんのさぁ! 痛いでしょー、だめなんだよー」 「悪いが僕は、レディーに手荒な真似をする男は嫌いなんだ」 「たしかにぼくは淑女じゃないよ? でもねえ、紳士でも、ないんだなあ……?」 よく分からない言葉を吐くや否や、敵がすぐに佳弥の懐まで移動した。警棒スタンガンを佳弥の喉元に突き付け――その寸前佳弥は動きを受け流し敵の背後に回り足を払い――「わ!」と可愛い悲鳴を上げた敵がそれとは裏腹に警棒で佳弥の脚を叩き付けた――地面に片手を着き体勢を戻す途中に。 「っ」 「佳弥!」 奈月はまたナイフを握り緑の長髪の背に向かって行った。男が振り返る。今度は確実に狙える距離。 すると、 バキ 「!?」 奈月たちの頭上から変な音がして、奈月の動きが止まると直後、上から人が降ってきた。――黒い影。 自分に降る影にとっさの判断で奈月は身をかわした。どさ、と降ったあとの地面には、深々と刺さる変わった形の棒があった。そしてそれを握る、黒と灰の髪の長身の男。 「……ほう?」 穏やかな微笑を浮かべ、その人物は冷静に武器を引き抜くと、奈月をじ、と見据えた。瞳に光はなかった。 「もークロガネ! おっそい! ぼくどんだけ頑張らされたの!」 「すまないバリタ」 「ぼく肉体労働派じゃないんだからねーっ?」 ぷくっと頬を膨らませた緑髪の男――バリタは新たに現れた男と二三会話すると、やる気をなくしたようにぶらぶら後ろに下がって木に寄りかかった。 佳弥が息をゆっくりと吐き、それから尋ねる。 「……なんだい、君たちは仲間なのか?」 「ああ、そうだ」 「じゃあ何、貴方も僕らを狙ってるの?」 しかし奈月の問いに、ツートーンの男は穏やかに微笑するばかりで、 「いいや」 更には否定をした。 「僕は、いや、僕らは、お前たちに害を加えたくてこうしているのではない。バリタには少々『試験』を手伝ってもらっただけだ」 「試験?」 奈月と佳弥にとって、この男の登場と言葉はさらに疑問を増やすだけだった。 黒と灰色の髪、それから赤褐色と紺青の瞳のちぐはぐな雰囲気の男――彼は続けた。 「お前たちはこの世界のものでは、ないな。だから、調べる価値がある」 「それってどういう――」 「だから、僕たちについて来てもらおうと言うのだよ」 男、クロガネが言う。奈月と佳弥は視線を交わした。二人とも同じ思いだったようで、――つまり『この男はヤバイ』という本能的な感知。 奈月はナイフを握るのをやめず、そして佳弥も注意を確実に向け――。しかし、 「だから喧嘩はやめよおよってえ!」 「!?」 緊張を唐突に弾いたのは更に上方からの別の声だった。奈月が見ると、すぐ近くの木の枝に足をぶらつかせながら座る白いスーツの男がいた。髪は透き通る白銀、瞳の色は狂気にぽっかりと空いた赤色で、それとは不釣り合いに表情は幼く無邪気な笑みを作っていた。 「てっちゃん、おどかしちゃだめだよおー」 「そうだな」 「よっ……とお」 白い男は木から地面に軽く降り立つ。奈月はナイフを彼らの方へ、じり、と構える。 ところがその男の方は、呑気に笑いながら馬鹿にしたような間延びした声で奈月たちに話しかけるのだった。 「俺たちはあ、お客さんとなかよーくお話しするためにお迎えに来たんだよおぉ」 「……それはどういうことかな?」 「おまえたちはねえ、『お客さん』なのお。おまえたちだけじゃあ、帰れないんじゃあないかなあ。とにかくねえ、俺たちとお話ししようよお! ……ねえてっちゃん、オーナーもゆってたもんねぇ!」 「そうだな」 笑顔で立つ男、その隣に控えるように立つ異様な男、それから白い男に甘えるように 「ルミちゃーん!」 駆けていきくっつく少女の姿をした男。 奈月と佳弥は彼らと対峙した。そして、一つの選択を迫られることになる。 一つ、このまま戦い続けるか。 一つ、彼らの言う『お話し』に興じるか――? 「面白いことになりそうだね」 佳弥が隣で低く囁いた。 --- 同盟にて、昏様に奈月と佳弥(D×S)と、昏様宅アルミさん、バリタさん、鉄さんのコラボ小説を書いていただけました…! 奈月とバリタさんが戦っている…!光景が目に浮かぶような攻防。そして佳弥の乱入が素敵です。佳弥のレディーファースト精神が輝いています(奈月性別不明だけど) 後半の鉄さんの登場はカッコいいし、アルミさんから漂ってくる王者の雰囲気…素敵過ぎます! 終始魅力満点で口元がにやけていました。 この度は小説を書いて下さり有難うございます。 |