零の旋律 | ナノ
灯里様から「武闘円舞」



標的に気付かれる前に仕事を終わらせるのが手練の刺客と言えるだろう。もっともそれは、暗殺される対象が無力あるいは、武術の心得のない者かのどちらかでないと成り立たないが。
銀色の刃が闇に閃く度、刺客たちが地に伏せる。

「……仮にも刺客ならば私くらい殺せなくてどうするんです?」

嘲るように薄い笑みを浮かべながらナイフを振るうのは十代後半ほどの少年だ。暗闇の中でも目立つ髪はまるで太陽のよう。
少年が相対していたのは、男か女かも分からない黒い外套に身を包んだ人間たちだった。奇妙な白い仮面を付けているため、顔は分からず、くり貫かれた部分から覗く瞳だけが異様な光を放っている。

「……色んな方面から恨みを買っているお前だけならまだしも、なんで俺までこんな奴らとダンス踊ってんだろうな、カサネ」

若干恨みの篭った視線をカサネに向けるのは二十代半ばほどの青年である。カネサと同じく闇の中でも目立つ髪は鮮やかな黄色で、瞳は異国の女王が愛したとされる翠玉のよう。
整った顔立ちではあるが、全体的に緩さが拭えない。赤い飾り石がついた白の上下に、薄緑の上着を二の腕辺りで引っ掛けている。
青年が手を翳した瞬間、彼の髪を飾る赤い石が淡い光を放った。それから僅か一拍、青年に肉薄しようとしていた刺客に光が雨となって降り注ぐ。
一見すると壮麗であるが、光は容赦なく刺客の肌を焼いた。手加減は無用。向こうは二人を殺すつもりで来ているのだ。手加減などする理由もないし、してやる必要もない。

「貴方がそう思っているだけでしょう? 私のせいにしないでください。理由を知りたければ自分の胸に手を当てて考えてみてはどうですか?」

カサネは相変わらず感情の読めない笑みを浮かべながら、だが何も感じないとでも言うように鎖つきのナイフを投擲し、仮面を絶命させたところで引き寄せる。

赤い飛沫が頬を塗らしたが仕方がない。本来、近接戦闘はカサネの得意とするところではないのだ。
確かに普段は毒殺しかしないし、そちらの方が得意だが、接近戦が出来ない訳ではない。滅多にしないから、彼らもカサネが非力だと思っていたのだろう。

誰が命じたのか知らないが、呆れるくらいにずさんだ。自分だけならまだしも、青年――シェーリオルがいるのだから。
素直に認めたくはないが、カサネにとって信頼できる相手であり、魔導師としての実力は折り紙つきでおまけに王国の第二王位継承権を持つ、つまりは王子である。

「そうだな。胸に手を当てて……俺を殺すつもりか」

「そう簡単に死ぬたまなら良かったんですけどね」

取り留めのない会話を続ける二人は平然としており、とても命を狙われている最中には見えない。カサネの命を奪おうと放たれた刃が見えない壁に阻まれる。見ればシェーリオルの髪飾りが輝いており、結界術を行使したのだと分かった。
含みのあるシェーリオルの笑みを無視して、短剣を拾い上げると物陰から自分を狙った仮面に向けて投擲する。

放たれた刃はあやまたず刺客を貫き、敵は断末魔の悲鳴すら上げずに崩れ落ちた。カサネとシェーリオルの周りは死屍累々と言っても過言ではない。
皆、この二人がやったことだ。

「……いつになったら終わるんだろうな?」

「簡単ですよ。全て殺せばいいんです」

疲れたように仮面たちを倒すシェーリオルと答えるカサネももはや作業だ。道端にある小石を退けるように水で作りだした槍で刺客を穿ち、シェーリオルはあ、とため息をつく。

「ったく。そんな事続けてるといつもこんな結果になるぞ」

「貴方に心配して頂くいわれはありませんよ。そろそろ飽きて来ましたし、終わらせましょうか」

さっさと刺客たちを片付けて、こんな茶番を仕組んだ者を見つけ出す。それ相応の報いを受けてもらわなければならないだろう。
カサネはそうだな、と笑って応えたシェーリオルと背中合わせに立ち、不敵に微笑んだ。



End

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同盟にて灯里様にFragmentからカサネとシェーリオルの共闘を書いていただけました!

カサネの淡々としながら、ダークで冷静…冷徹な雰囲気やシェーリオルの何処か面倒そうにしながらカサネを気にかけている雰囲気がたまりません…!共闘御馳走様です。
場面描写が丁寧で読みながらカサネの投擲する姿がすっと浮かんできます。カサネとシェーリオルがいれば向かうところ敵なし状態ですね!

この度は小説を書いて下さり有難うございます。


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