零の旋律 | ナノ
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 暗がりの中に一人の少女が立っている。一瞬驚いた顔をしたものの、カサネの横に男が一人倒れているのを確認すると、彼女は即座に身がまえて警戒の色を強くした。
 この客人になら現場をみられても問題はない、とカサネの脳がはじき出す。宮殿での発言力は得たいの知れない客人よりもカサネのほうが上だし、この女の相方は、こんなことで自分達と騒動を起こさないだろう。彼らにはカサネの殺人を訴えてもメリットはない。
 
「……あんたがやったのか」

「だからといって別に貴方を殺そうとは思いませんよ」

 少女はカサネの言葉を信用していないらしい。まあ、当然だろう。ここではいそうですかと素直に聞いていたら馬鹿を通り越して白痴だ。彼女はゆっくりカサネとの距離をとりつつ、様子を伺ってくる。
 
「……用事がないのであれば部屋に戻られてはいかがですか? 客人とはいえ、夜の宮殿を徘徊するのはオススメしません。不審者と間違えられてしまいますよ?」

 緊張感が肌を焼く。少女の発する敵意ギリギリの警戒が鎌首をもたげた蛇のようにカサネを睨み付けている。彼女の実力は計り知れないが、逃げるだけならカサネも腕には多少の自信があった。耳の痛くなるような静寂がしばらく続いたかと思うと、眼鏡をかけた少女がゆっくりと口を開いた。


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