零の旋律 | ナノ
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「この祐未に、魔法展開前の魔石へ一度攻撃させます。その後、リーシェさんには魔石で魔法を展開してもらい、展開中また祐未に攻撃させます。魔法展開が終了した後にも同様の実験を。これを三度繰り返してもらいたい」

 テオが言うと、赤い宝石の髪留めをつけた金髪の男がこくりと頷いた。髪留めも耳飾りも質の良いものを使用している。ゆったりとしたデザインの服を着ているが、それもかなり上等な布で作られている事がわかった。さすがは弧の国の第二王子と言ったところか。切れ長の目がテオと祐未を逐一観察しているので、金持ちの箱入り息子にしてはなかなか食えない性格のようだ。もっとも、彼より食えなさそうな男は、今テオと祐未を観察するような態度でロッキングチェアに座っている。テオがチラリとその男のほうを見ると、彼はテオの視線を受け止めて、目の中にかすかな険を宿して見せた。一瞬空気にヒビが入ったけれど、第二王子は大して気にもとめていないらしく、のんびりと口を開く。
 
「でもいいのか? 下手すると、その子が大怪我するかもしれないけど」

「ああ、かまいません。なにかあってもすぐ治療できますから」

 テオの言葉に、祐未が不服そうな顔をする。無論、テオはそれを無視した。ロッキングチェアに座っていた男――たしか、カサネといったか――が、上辺だけは明るい、けれどピリピリと張り詰めた声を出す。
 
「興味深いですね。当日は私も見学させていただいていいですか?」

「かまいませんよ」

 テオが愛想笑いでそれに答えると、祐未が道ばたにぶちまけられた吐瀉物でもみるような顔で舌を出した。シェーリオルとカサネからは見えないように彼女の足を蹴り飛ばしてやると、今度は痛みで顔をしかめる。彼女の表情を華麗に無視して、
 
「……カサネさんは魔道の知識がとても豊富だと伺っています。貴方の意見を下されば私達も助かります」

「どうでしょう。私自身は魔法を使いませんので、役に立つ事を言えるかどうか」

 テオとカサネがお互いに目を見合わせてニッコリと笑う。テオのすぐ横で、祐未がまたぶちまけられた吐瀉物を見るような顔をした。


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