「あの客人には、気を許さないほうがいい」 自分より先に自室でくつろいでいる友人を見て、シェーリオルは自然と片眉を跳ね上げた。ロッキングチェアでくつろいでいるのは16歳前後の少年。実年齢はわからないが、とにかく見た目はそのくらいだ。鮮やかなオレンジ色の髪は少し長めで、肩にかかるかかからないかくらいまである。鋭利な輝きを宿す黒目がちな瞳は、どこか不機嫌そうだった。 「そんな事は、俺だってわかってるよ」 言いながらベッドに腰掛ける。ロッキングチェアはカサネに占領されているからだ。彼が我が物顔でシェーリオルの私室を利用するのはいつもの事だが、せめてそれなりの配慮と遠慮は欲しいものだ。 「魔石の実験とやらの時も、なにをされるかわかったものじゃないぞ」 敬語から突然切り替わったカサネの口調は少し粗暴な響きがあった。慣れているのでシェーリオルは大して驚かない。 「わかってる。でも、俺以外の誰かがやるよりは余程安全だ。少なくとも、俺はあいつ等が警戒対象だとわかってるからな」 勝手に持ってきたグラスで勝手にオレンジジュースを飲み始めたカサネが目を伏せる。その堂々たる座りっぷりに、思わずシェーリオルの口からもため息が出てしまった。注意しても彼は聞き流さすだけだろう。そもそもシェーリオルもまじめに注意する気はない。自分もワインかなにか飲もうかと彼が席を立つと、丁度同じタイミングでノックの音が響いた。 「誰だ?」 シェーリオルが尋ねると、扉の向う側から声がした。 「テオ・マクニールです。明日の実験について少しお話したいのですが」 シェーリオルとカサネの視線が重なり、目と目だけでで音もなく言葉が交わされる。しばし沈黙した後、シェーリオルは観念したようにため息をついて 「どうぞ」 と言った。音もなく扉が開き、銀髪の男が入ってくる。彼はシェーリオルとカサネを認めると、三歩前へ進み出て部下の少女も招き入れた。口元に嘲笑とも愛想笑いともとれぬ嫌な笑みを浮かべ、彼は 「お話中でしたか。申し訳ありません」 と、申し訳ないとは毛ほども思ってなさそうな顔で吐き捨てたのだった。 |