手袋をするのも忘れて殺傷能力のある糸を操る友人――李真を、冬馬は見つめていた。自分のちょうど心臓の位置に、真っ赤なインクが付着している。ペイント弾なのだろうそれを受けたときは酷い激痛が走った。実際の銃弾ではないにしろ、拳銃とは思えない大きい弾丸だったから、骨にヒビくらいは入っているかもしれない。実際に攻撃されたら死んでいるだろう攻撃だったので、ヒビくらいですんだならもうけものか。黒髪の少女はさっきからちょこまかと動き回り、李真の操る糸から逃げている。細いワイヤーは目視する事など不可能なはずなのに、一体どうやってその動きを察知しているやら。李真は完全に頭に血が上ってしまったらしく、ただ闇雲に糸を振り回し、その度彼の手が傷ついていく。ふと、ちょこまか動き回っていた少女が背後の石に躓いてバランスを崩した。 「うわっ……!」 間抜けな声があがり、少女の身体が後ろに倒れ込む。李真は今がチャンスと言わんばかりに手首を返して、少女に無数の糸が襲い掛かる。このままいけば彼女は細切れになるだろう――が、しかし少女は咄嗟に体重を移動させ、素早く地面を転がって糸を避けて見せた。思わず口笛を吹くと、李真に睨まれる。あわてて彼から目をそらし、地面を転がった少女に目をやると――彼女は、李真でも冬馬でもない、森の向う側を見つめていた。李真の糸が隙を見せた彼女に襲い掛かり、腕に裂傷を作る。それしかできなかったのは、彼女があらぬ方向へ走り出したからだ。 「逃がすかっ……!」 李真も少女を逃がすまいと走り出し、糸を繰り出す。掌に糸が食い込んで血が噴き出したけれど、彼は気にしていない様だ。少女の背後はがら空きで、隙だらけ。格好の獲物だと思われたが―― ――! 李真が糸を操り少女の背中を攻撃するより早く、形容しがたい轟音がその場に響き、李真と冬馬は咄嗟に動きを止めてしまった。 そして、轟音に怯まず走り続ける少女は、あっというまに彼らの前から姿を消した。 |