零の旋律 | ナノ
桐島様から千朱と水渚



 嫌い。
 嫌い。
 大嫌いだ。

 射るように見下ろす自分を見たくないのか、倒れ込んだ千朱がふいと顔を逸らした。
 眩しい金。綺麗なのに、彼はその色を嫌う。
「やっぱり面白いね、千朱は」
 何が、と愛想なく返される。軽く笑ってみせただけで、返事は敢えてしなかった。
 どうして自分に構うのか、訊かれた時の答えは既に胸の内にあったけれど。
 彼は僕を嫌っているし、僕も彼が「嫌い」だ。毒を孕んだ砂の上で、殺し合いにも似た喧嘩をする程には。
 睨む千朱の瞳も、やっぱり綺麗で。
「嫌いだ」
「……そうだね。僕もだよ」
 そう返して、笑って、肩を竦める。それでいいと思っていた。それ以上の感情を抱いたら、きっと僕は自分を許せなくなる気がしていた。
 綺麗で、綺麗で、どうしようもなく。
 あの日見た千朱の赤い血が、もうずっと瞼の裏に焼き付いている。それが苦くて仕方ない。
「千朱」
 名を呼んでも、答えが聞こえない。
 彼がいなければ、会わなければ、こんなふうに思う事もなかった。
「……楽しかったんだよ、千朱。君を嫌いでいれば、君は答えてくれたから」
 綺麗な君を見るのが楽しかった。
 嫌いだと言い合って、喧嘩をするのが楽しかった。
 千朱が綺麗だと言ってくれた髪は、切らずにいた。この色で良かったと、安堵と満足感で心が満たされた。
 もしいつか君が目覚めたら、その時はまた喧嘩が出来るだろうか。そうしたら、君はまた私を嫌いだと言うのだろう。それが千朱だ。
「千朱」
 叶わないかも知れない。あまりに儚くて、願う事すら躊躇う願い。
「……千朱」
 嫌い。
 嫌い。
 大嫌い。
「……千朱……」
 多分、太陽より綺麗な、君が。

 俯けば、ほんの僅か、砂に雫が落ちた。


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同盟にて桐島様に千朱と水渚の小説を書いて頂けました。

二人の関係が如実に表されていて、夢中で黙々と拝読していました。
全体の切ない雰囲気、「嫌い」という言葉の一つ一つが胸にしみます…!
水渚の心情も丁寧に深く現れていて感激です。水渚と千朱の関係はもうまさしくこれです…!!

この度は書いて下さり有難うございます。


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