零の旋律 | ナノ
昏様から「齧る」



※BL、流血表現注意



齧る


 なんとなく気まぐれでそこに立ったら、大ぶりの刃を持つそれを妙に気に入ってしまった。鈍く自身を映す無機質に光が吸い込まれた。行動原理など特に深いわけでもなく、振り下ろしぶつかる硬い音に興味のようなものを抱く。
 だん、だん、だん
 肉の切れる感触が右手に伝わった。ぶつ切りになっていく塊を砕くのが案外楽しかった。
 にぃ、と口角が上がる。
(喜んでくれるかなあ)
 至極単純な思考回路。悪意でも善意でもないのだ。

*

「李真ぁ、待ってたよお」
 帰ってきたひとを笑顔で出迎えると、彼はやわらかい微笑をふとひそめた。
「それは、どうしたんですか?」
「李真のために作ってみたよお。オムレツう」
 テーブルの上には食事が並んでいる。焼いただけのパンとオムレツしかないが、普段料理なんてしない俺にしてみれば最上級のもてなしだ。
 焦げのない綺麗な黄色。その上に赤いトマトケチャップ。
「美味しそうでしょお」
 にこ、と笑うと李真が苦笑のようなものを浮かべながら歩み寄ってきた。
「それもですけど。それより私が言いたいのは、こちらです」
 言いながら掴まれたのは俺の左手。見るとざっくり切れた指から今もなお鮮血が流れ出ていた。
「ん?」
「止血しないと、倒れますよ」
「あははぁ、気付かなかったあ」
 笑っていると李真が「全く」と嘆息した。その様子を見ていると何となく、
「じゃあおまえが消毒してよお」
 そういう気分になった。
 差し出した手を見て李真がやや困ったように俺を見上げる。
「消毒と言っても」
「してくれなきゃやぁあだ」
「……」
 ふう、と溜息を吐き、
「仕方ないですね」
 人のよさそうな皮を被ったそいつはぱくりと俺の指を食んだ。
 温かい粘膜に包まれて指先がじわりと疼く。傷口を抉るように舌が食い込むが、痛くない俺にしてみればどことなくむず痒いような心地だ。
 丹念に舐めとられながら血で唇を赤くする彼を見下していると、どこか満ち足りるものがある。戯れに口内や舌をつついてみると不快なのか若干眉を顰め、最後にちゅ、と音を立てて離れた。
「満足ですか?」
「面白かったあ」
「それはよかった」
 李真はかすかに笑って言った。
「とても美味しかったですよ」
「まだ食べてないじゃん」
「頂きましたよ。……お裾分けしましょうか」
 ぐ、と襟を引かれ屈む。すると眼前で李真の目が笑うように細められた。先ほどまで俺の指を舐めていた舌が今度は俺の唇の間に滑り込む。
 自分の血の味がじわりと染みた。ぐちゅぐちゅ唾液と絡まるのが気持ちいいので、特に抵抗もせず突然のキスに興じる。
 唇を放した李真は化けの皮を脱いでいた。
「美味い?」
 心の中に過ったのは喜びのような気持ち。
「うん」
 頷くと李真の視線が唾液と血液に塗れた左手の指に向いた。
「血ぃ流したいときは俺のために取っておけよ」
 どこかおかしな言葉と笑みが、俺はとても好きだと思う。
「俺はそういうおまえがいいなぁ」
 踏み出したら血だまりが跳ねた。



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同盟にて、書いて頂けました…!
昏様宅のアルミニウムさんと李真のコラボCPです。

二人の関係性に心鷲掴みにされました…!狂気染みていて歪んでいるのに、何処か仄々とした可愛らしい雰囲気といちゃつき具合がたまりません…!
アルミニウムさんの行動の一つ一つある種純粋な行動が可愛くてしかたありません…!

この度はコラボ小説を有難うございます。


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