どうしてこうなったのだろう。 浮かんだ疑問はすぐに打ち消した。そんなことはどうだっていい。 眼下の金色を見下ろして、水渚は笑った。そうっと手を動かして千朱の首筋に這わせる。両手を首にかけると、さすがに千朱は金の瞳を眇めた。 「何だ」 それでも返ってきたのはたった一言。抵抗しないのは、本気でないと思っているからか。 ――つまらない。 口元だけに笑みを刻みながら水渚は少しだけ手に力を込める。 「……水渚」 さっきよりもキツい声音。知らず笑みがこぼれた。 でも、まだ足りない。 「綺麗だね」 「……っ!」 そう言えば、瞬時に千朱の顔色が変わった。間を置かずにその拳が腹部にのしかかっていた水渚を襲う。 普通なら避けきれない。だが、水渚は素早く千朱の首から手を離すと、横に転がって拳から逃げた。 「残念。予想済み」 くすくすと笑うと体を起こす。――が、それは叶わなかった。 頭上に影が差したかと思えば、額を勢いよく押された。そのまま地面に押し付けられる。 あっという間に形勢逆転。 今度は怒りに燃える金が、水渚を見下ろしている。この状況の中、水渚は懐かしさに目を細めた。 「一緒、だね」 「何がだ」 「僕達の最初と」 あの時も金の瞳に見下ろされていた。 ゆっくりと水渚は千朱へと手を伸ばす。その頬に触れる前に掴まれた。 「みな――」 「千朱ちゃん」 千朱の呼びかけを遮って、水渚は笑った。 「大っ嫌いだよ、千朱ちゃん」 「俺もだよ」 即座に返ってきたいつも通りの言葉。同時に頭を押さえつけていた手が離れる。腹部の圧迫感も消えた。 顔をそむけ離れていく背中を見送る水渚の顔には、もう笑みはない。 最後にもう一度だけ呟いた。 「大嫌い、なんだ」 END ------ 同盟にて和泉様に千朱と水渚で書いて頂けました! シリアスで水渚の病み具合が好みの真ん中を貫いていて、読みながら終始にやけていました。二人の関係性やら距離もとても素敵に書いて頂けて舞い上がっています! 一文一文を拝読するたびにイメージが次々と脳内に浮かび上がってきます。 この度は小説を書いて下さり有難うございます。 |