俺はその雑念を頭から振り払い、大きく息を吐き出した。 「では、行ってくる。」 「気を付けて下さい。 魔物は一見ぼーっとしているようですが、非常に強い術を使います。」 「……わかった。」 注意を払いながら、俺は部屋の中に入った。 部屋に置かれた家具等もがパンで作られている。 しかし、その家具の一部や壁が酷くでたらめに壊されて…いや、食べられており、術で焼き焦がされたような部分も何ヶ所かあり、見た目にもとても無残な状態になっていた。 (魔物め…どこにいる…?) リビングを抜け、廊下伝いに一つずつ扉を開けていくが、魔物の姿は見えない。 そして、突き当たりの部屋の前に付いた時…俺は部屋の中から聞こえる小さな寝息に気が付いた。 魔物はこの部屋にいる…! しかも、眠っているようだ。 俺は、音を立てないようにノブを回し、扉を押し開いた。 「な…なんだ、こりゃ!」 足の踏み場のない程にとっ散らかった部屋の中で、真っ白な長い髪の毛に埋もれるように眠っていたのは奴だった。 「おい、起きれ。」 「……だれだ…」 「俺だ、はよ起きれ。」 朔夜は、眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔でゆっくりと起き上がる。 「何なんだよ…まだ起きる時間じゃねぇだろ。」 「おまえなぁ…いいかげんにしろよ。 パンの妖精一家が困ってたぞ。」 「そんなこと知るかよ。 俺は、ここが気に入ってんだ。 腹がすいたらこうやって食べれるし…楽なことこの上ない。」 朔夜は、そう言ってベッドのマットを引き千切ると、それを躊躇うことなく口に運んだ。 マットは、あちこちに千切られ食われた跡があった。 「そんなもん食べるなって! 外に行ったら、すぐそこにパンが実るパンの森があるじゃないか。」 「すぐったって歩かなきゃならねぇじゃないか。 これだったら寝たまんまだって食えるんだぜ。」 朔夜はそう言って、またパンのマットを千切って頬張った。 「不潔だろ! それに、奴らは家を追い出されて困ってる。 その上、おまえがあちこち千切って食ったり術を放つから、家にも相当がたが来てるんだ。 可哀想じゃないか。 さ、帰るぞ。」 「いやだ。 俺はここに住むんだ!」 「駄目だ!」 「いや…うっ…」 朔夜が言葉を言いきらないうちに俺の拳が朔夜の鳩尾に深く入った。 |