零の旋律 | ナノ
昏様から「第三点とdは揺るがず」



※BLorGL+NL


 奈月たちの部屋にお邪魔した放課後。閖姫はまだ用事の最中で戻って来ておらず、奈月と訪問客である僕の二人だけがそこにいた。
 テーブルに着いて兎のぬいぐるみの亜月を抱きしめ、ぱたぱたと足を揺らしながら奈月が不機嫌そうに低く呟く。
「閖姫遅い。……うー」
 ぷくっと膨らました頬があまりにも素直に感情を示しているので、思わずくすりと笑った。それに気づいた奈月がむっと僕を見上げてくる。
「何?」
「いやいや、何でも。彼、六時には戻ると言っていたから、あとほんの少しの辛抱だよ」
「……うん」
 時計の針を見て、ほんの十五分もすればその時間だというのに奈月は明らかにしゅんとした。その憂いを含んだ瞳と長い睫毛が落とす影、柔らかな色をした髪のかかる肌まで滑らかで、ふとしてから見惚れたことに気付く。やはり僕は彼女のことが――否、性別は定かではないが僕にとって奈月は可愛いレディであるから女性としておいて――とにもかくにも、好きなのだ。
 だが。
「奈月、君は本当に閖姫が大好きなんだね」
「当たり前じゃない!」
 ばっと顔を上げて意志の強い目で見返してくる奈月。
「閖姫は僕のだもん。ずっとずっと僕と一緒だもん」
「うん、うん。本当に仲良しだ」
「閖姫だって僕のこと愛してくれる……世界で一番、誰よりも」
 奈月は、夢を歌うように甘い輝きをはらんで絶対の信頼を口にした。
 それに痛みを生じないわけがない。けれど僕はいつもの笑顔のまま。可愛いひとに指一本触れないまま。
 でも、少しだけ本音を溶かした。
「――それはどうかな。君のことを愛するのは、何も閖姫だけではない」
「え?」
 きょとん、奈月が大きな瞳を僕に向ける。そこに映るのは今、僕だけ。
 僕の本心かも判別できなくなった笑顔を奈月の目に見ながら、言う。
「僕だって、彼に負けないくらい君を愛することができるんだよ?」
 するとその表情はぽかんとしたままゆるりと、
 ――ガチャ。
「!」
 そこで時間切れ。待ち望んだ音に跳ね上がり、奈月はぱたぱたドアの方へ歩き出した。迎え撃つようにそれが開き、彼女の大好きな閖姫が奈月を受け止める。
「閖姫、閖姫! 遅かったよ!」
「ああ、悪かった。……っつっても予定通りなんだけどな」
「僕を一人にするなんてひどいよ、もうっ」
 悪い悪い、宥めるように笑いかけながら奈月の髪を優しく撫でる。その完成された構図に割り込むすべもなく、誰にも見られない瞬間だけ『本当の私』が顔を覗かせた。
「お、佳弥来てたのか」
「ああ閖姫、お邪魔していたよ。勝手に上がり込んですまない」
「構わねえよ。奈月の面倒見てくれてありがとな」
 きちんといつも通りの僕で応対しながら、部屋に荷物を置きに行く閖姫を見送る。弾む足取りでそれについていく奈月。もう興味を引くことすらできないな、と息を吐くと、
「佳弥」
「っ」
 不意に奈月が振り返り僕を呼んだ。
「僕ね、佳弥のことも大好きだよ。だって僕のこと、とってもとっても愛してくれるんだもん」
 笑顔ははっきりと目に焼き付いた。香りを残して髪がなびき、そして奈月はそこから消えた。
 漏れそうになる乾いた笑いを、どうにかこうにか噛み殺した。



第三点とdは揺るがず



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同盟にて「二次創作CPで書かせて」という素敵な募集に飛びつき、昏様からDependence×Syndromeで書いて下さりました…!
閖姫×奈月←佳弥になっています。

最初拝読しながら、素敵過ぎて、駄目だ画面が見れない…!しかし読みたいの状態の繰り返しでした。
佳弥の思いが、切なさが、心情が伝わって来る文章に惚れ惚れしながら凝視していました。佳弥このまま片思いでいてくれ…!と思わず思ってしまいました。
奈月がまた可愛くて、もういっそ奈月性別不明じゃなくて少女でいいよ^^閖姫がカッコイイよすぎる…!

小説を書いて下さり有難うございます!


以下昏様解説(引用)

▼妄想
閖姫さん×奈月さん固定。
包容力攻め×無邪気ヤンデレで奈月さんからの愛のベクトルがすごく重い。
のを軽々と包み込んであげられる閖姫さんのカリスマ。
これを前提に佳弥さん→奈月さん。GLの感覚です。
奈月さん大好きなんだけど閖姫さんには勝てないことを知っているので深々とつっこめない佳弥さん。紳士的な佳弥さんにドリームが…。
ちなみに奈月さんは佳弥さんの気持ちには一切気づいていません。恋愛ではない愛情を持ってもらっていると思っています。

それ以外では冬馬さん×李真さん×冬馬さんの食いつ食われつなどろどろCPとかを考えていました。

ちなみにタイトルの「d」は距離のdです。


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