鈍い音。同時に空を切ったのは人間の体だった。 弾き飛ばされ、床に叩き付けられた李真は痺れる痛みに顔をゆがめた。そこに近づく足音。加害者である冬馬は、武器の棒をはらって淡々と歩み寄る。表情は殺されている。 「……何をするんですか」 無理矢理ゆっくりと体を起こし、ゆがんだ笑みを唇の端に浮かべながら李真が問うた。こつん、靴音が間近で止まる。 直後、腹部を襲った強烈な圧力に李真は再び倒れこむ。空気を思い切り吐き出し、かは、と咽た声が掠れて響く。 「ずっと考えていたんだ」 冬馬の声は静かだった。 「俺は君を俺のものだと思ってたけど、実際、それに確証はないだろ?」 言葉と同時に棒を鋭く振りおろし、冬馬は顔色も変えず呟くように続けた。 「だったら、確実性が欲しい」 ひゅ、と風切り音。 まっすぐ降ろされた棒の先は、李真の首筋を抉るように押し当てられた。 李真はささやかな笑みを消さないまま、強い瞳で冬馬を見上げる。 「殺すのか?」 簡潔な問いに、 「気分次第」 冬馬は簡潔な返答をする。 聞くと、李真の表情が一度消えた。ため息のようなものがすり抜け、次に浮かぶのは不快気なゆがみ。 「俺は、自分が痛めつけられるのは好きじゃない」 「知ってるさ」 「……たちが悪い」 吐き捨てるように漏らし、李真は瞼を下ろす。諦めとも取れる様子に、冬馬はかすかな笑みを浮かべた。 ――『自分のもの』が自分に従順なのは、当たり前で幸福なこと。暴君は確かに李真を誰よりそばに置き、『自分のもの』というカテゴリの筆頭にした。 だから、当然という甘えが生まれた。冬馬に隙があったとすれば、ただそれだけ。 次の一撃をと武器を浮かせた冬馬に、襲ったのは鋭い腕の痛みだった。 「ッが――!」 視界の隅で細い銀が光った。それが李真の持つ武器であると認識すると同時に、武器をつかんでいた腕から鮮血がほとばしる。 取り落とした棒はからりと音を立て、李真がそれを投げ払って起き上がる。取り出した黒い手袋を歯噛みし両手に身につけ、李真は戦闘姿勢を完全に整えた。 「詰めが甘い、冬馬」 逆転した形勢に、李真は楽しそうな笑みを浮かべていた。 冬馬の腕からは依然出血が続き、熱を持つ痛みと痺れにただ耐えるしかできない。 「お前が俺をお前のものだと思うのと同じくらい――いや、それ以上」 一歩踏み出すと同時に、銀の糸が宙を踊る。 「俺はお前を俺のものだと、思ってるってことだ」 糸は迷いなく冬馬へと伸び―― そして、意図は。 カラメルリストレイン --- 同盟にて、昏様から李真と冬馬の小説を書いて頂けました!! もう、見た瞬間私の好みをつきまくっている内容に終始ドキドキで、繰り返し何度も何度も(それこそ読み過ぎだっといわれそうな…)拝読していました。 表李真と冬馬のやりとり、そして裏李真と冬馬のやりとりがそれぞれ素敵すぎます!! この度は小説を書いて下さり有難うございます。 |