零の旋律 | ナノ
常盤様から律&泉



 むせ返る様な血の臭い。
 無理矢理泥の如き眠りの底から引き上げられ、泉は不承不承くっつきたがる瞼を擦った。起きぬけから気分は最悪だ。
 もそもそと身を起こして寝室を出れば、

「おはよう。泉が自分から起き出すなんて、珍しいこともあるもんだ」

 全身を赤く濡らして笑う、律が其処に居た。
 予想の範疇を軽々と飛び越える衝撃的な光景に眠気は去り、思わず言葉に詰まる。
 特に何をするでもなく垂れ下がる腕の指先からはぽたぽたと引っ切り無しに血が滴り、無遠慮に床を汚す。落ち着こうと深呼吸しようが不快な鉄の臭いを胸一杯に吸い込んでしまい、悪循環と化していた。
 鐘の音の様にわんわんと頭痛が響く。寝起きの所為だけではない低い声で、泉は問うた。

「……それ、返り血、か」
「勿論。俺が負傷するようなヘマをするとでも?」

 そうだろうと推測出来たところで尋ねずにはいられない質問を、律は心外だとでも言いたげに鼻で笑った。
 彼の髪さえ血で染まり、毛先から誰かの血液が零れている。傍目にも不気味なその様は、相手が知人でなければ逃げ出したいところだ。
 乾き切る前の状況から鑑みるに、恐らく精々数十分程度で殺人を済ませて帰宅してきた――のだろう。
 競り上がる吐き気は塩辛い唾液を嚥下することで押し止め、泉は極力普段通りの風を装った。

「とっとと水浴びて来い」
「はいはい」

 元よりそのつもりだったのか、律は鷹揚に頷いて一先ず洗面所へ消えた。
 水溜まりの広がる居間を前に、泉はとりあえずこの嘔吐欲をいかにやり過ごすか、そればかり考えていた。



------
同盟にて常盤様に泉と律の話(流血内容)を書いて頂けました…!!
この流血赤々血みどろ具合と律の性格の悪さがわかる内容に思わずニヤリとしてしまいます^^拝読していると、はたから見たら不審者状態です!常盤様の書かれる律と泉のやり取りが素敵で繰り返し魅入ってます。

この度は小説を書いて下さり有難うございます。


- 55 -


[*前] | [次#]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -