日の光が差さないこの街にも昼夜は存在する。 地上と同じように昼には大多数の者が活動し、夜は眠る。 深夜とでもいうべき今、街中を行く者はほとんどいない。その少数派の人々の中に、金髪の青年と黄緑色の髪の青年が含まれていた。 「ふわあ……眠い」 「まったくだ。こうなるって知ってたら今朝はゆっくり寝てたってのに」 盛大な欠伸を隠そうともしない黄緑色の髪の青年――斎に同意を示し、篝火は金の髪をかきあげて溜め息をついた。 第一の街の支配者、榴華から新たな仕事を請け負ったのはたった数時間前。仮眠をとる暇すらなく、準備を整え目的地へ向かうこととなったのだ。 「これは報酬弾んでもらうしかないな」 「賛成ー」 やってらんないよ、と呟いて斎はまた欠伸を一つ。つられた篝火が欠伸をかみ殺した時、目的の場所へと辿り着いた。 人気のない倉庫街。ここにターゲットがいる筈である。 「さて、行くか」 篝火の言葉を合図に二人は気配を消して一歩を踏み出した。 天井付近の窓から倉庫内に侵入を果たした二人は、足音を忍ばせて事務机の並ぶ部屋を出た。 細い通路の下は、黒々とした闇が広がっている。暗闇に慣れた目を凝らせば、かろうじて大きな袋が積み上げられているのが見えた。 「表向きは何してる奴らなんだっけ」 「小麦粉とかを店舗に卸してるんじゃなかったか?」 手すりにもたれた斎の問いに答えながら、篝火はそっと隣の部屋の扉に張り付いた。隙間から漏れる明かりと話し声。立てた人差し指を唇にあてると、察した斎が頷いて反対側で扉に耳をつける。 「――から、榴華を……すには……」 「次の……に一斉に蜂起……」 途切れ途切れだが、聞こえる内容は穏やかではなかった。 ――反乱分子の調査。 それが今回榴華に頼まれた仕事である。 ほぼ同時に篝火と斎は扉から離れた。ここが奴らのアジトであることは間違いないが、何か証拠が欲しい。 先程の部屋に戻ろうと篝火が踵を返したその時。 「う、わっ……!」 何かに躓いたのかバランスを崩した斎が手すりを掴む。だが、それがいけなかった。 手すりに立てかけられていたモップが衝撃で倒れ、盛大な音を響かせる。 「げっ」 「誰だっ」 斎が顔をしかめ、篝火が額に手をあてたのと同時に部屋の扉が勢いよく開く。 バラバラと出てきた十人近い男たちで狭い通路はいっぱいだ。侵入してきた部屋の扉に手を伸ばすも、男の一人が発砲した銃弾が取っ手に命中して慌てて手を引っ込める。 「篝火! こっち!」 手すりに手をかけた斎が篝火を呼ぶ。意図を理解した篝火は、再び火を噴いた銃口を避けるように地を蹴って手すりを飛び越えた。 重力に従い落ちる二人の体は、硬い床に叩きつけられることはなかった。高く積まれた袋の上に着地して、もう一度床へと飛び降りる。 「待ちやがれ!」 「そう言われて待つバカはいねーっての」 「いや、待とうよ」 「は?」 ふいに聞こえた斎の言葉に、思わず篝火は足を止めた。後ろの斎を振り返ると、彼も立ち止まっていた。 「……何だって?」 「だから待つんだよ」 「どうして……って、ああくそっ」 カンカンと盛大な音を立てて階段を駆け降りてきた男たちは、既に二人の目の前まで来ていた。誰かがつけた灯りが皓々と全員を照らす。 「貴様等は榴華の手下か?」 「さあ?」 「……何にせよ生かしては帰せねえな」 男たちがそれぞれ武器を構える。舌打ちした篝火は、ジロリと斎を睨んだ。 「どうする気だよ」 「どうせならぶっ潰した方が早いかなって」 「簡単に言うな。……っと、意外と骨が折れるぞ」 会話の途中で斬りかかってきた男の一撃を避け、腹部に拳を叩き込む。斎も放たれた弾丸を結界で防いだ。 「そうだな……。あ、いいこと思いついた」 にっと笑った斎が攻撃を避けたり防いだりしながら篝火の元へと駆け寄った。素早く耳打ちする。 「――なるほど」 頷いた篝火は、向かってきた男を投げ飛ばし、一気に駆け出した。近くの袋を持ち上げて、剣を振りかぶる相手に投げつける。驚いた男が袋を斬り、白い粉が空に舞う。 斎はというと、風の刃で敵を薙払っていた。男を掠めた刃はそのまま積み重なった袋を斬り裂いて、一気に視界を白く染める。 そんな攻防は、しかし長くは続かなかった。敵の数が半分になった頃――。 「篝火!」 斎の声が響く。素早く反応した篝火は、倉庫の入り口に駆け出した斎を追った。 男たちも追いすがるが、二人の方が早かった。一歩、外へ出たと同時に斎が符を飛ばす。粉塵舞う倉庫内を空を切るように飛んだ符は、中心で動きを止める。 「これで終わり。バイバイ」 笑った斎がとんっと地を蹴ったと同時に、炎がはぜた。 爆風が倉庫から距離をとった二人さえも飛ばしそうな勢いで押し寄せる。中にいた者たちの末路は語るまでもない。 「粉塵爆発、ね。これなら確かに一発だ」 「だろ?」 得意げに笑う斎を横目で見ながら、篝火は溜め息をついた。 「仕事内容は“調査”だろ? まずいんじゃないか?」 「んー、大丈夫じゃん? 多分だけど」 煙と炎が立ち上る倉庫を背に歩き出しながら、斎は軽い調子でそう言った。隣を歩く篝火は、怪訝そうに眉をひそめる。何で、という問いが発せられるより早く、斎が口を開く。 「調査だけなら俺らより優秀な者はいる。それなのにわざわざ俺らに頼んだってことは」 「潰させるつもりだったか、もしくは潰してきても問題ないってことか」 「多分ね」 頷いた斎がふわあと大きな欠伸をした。ごしごしと目を擦って篝火に視線を移す。 「もう限界。さっさと報告して帰ろ」 「そうだな」 その言葉に同意して、篝火は夜明けの時間でも太陽の昇らぬ空を見上げた。 END ------ 和泉様から同盟にて斎と篝火の小説を書いていただきました。 魅惑的な内容に黙々と拝読した後、しばらくの間余韻に浸っておりました。 物語がそのまま脳内に浸透し、イメージが想像で浮かんでくる小説に繰り返し浸っております^^斎と篝火のやり取りもこれぞ二人だ!な内容に興奮しています この度は小説を書いて下さり有難うございます。 |