「……ところで、何でてめぇら毎朝俺の髪解かしてくんだよ」 「篝火マニュアルに書いてあるから」 朔夜の問いにそう答えた斎が見せたのは、一枚の紙。そこに、見慣れた筆跡で「朔夜の世話の手順」と書いてある。 ……飼育動物か、俺は。 その言葉は、ふと頭に違和感を感じた途端、変化した。 「おい、何してんだよ!」 「何って、団子にしてるだけだろうが」 櫛を口にくわえ、不明瞭な発音で彼女が言う。綺麗に解かされた銀糸は、頭の上でひとまとめにされようとしていた。 「勝手にやってんじゃねぇ!」 「いいだろ別に。うざったいだろこんな長いと。たまには縛れよ」 「あれ、案外似合うんじゃないの?」 「だろ? 簪とかねぇかな」 「あーあるある。ちょうどここに……」 「何であるんだよ! おかしいだろ!?」 暴れる朔夜を斎が押さえつけて、その間に郁が器用に髪をまとめ上げた。最後に、髪にすっと何かが通る感覚がする。 「出来た」 「おお。上手いねぇ」 満足げな郁と楽しそうな斎に、朔夜は食ってかかる。 「てめぇら、人で遊びやがって……!」 「いいじゃん、綺麗に出来たんだし。一日これで過ごせば?」 「外す!」 「あっ、止めろよ! またやるぞ!」 「何ッでそんなノリノリなんだてめぇは!」 憤懣やるかたない思いで拳を握り締めていた朔夜は、その時、部屋の隅にあった覚えのない物を見つけた。 「……おい。あれ……」 「ああ、言ってなかったっけ。いちいち言ったり来たりするの面倒臭いから、今日から泊まることにしたんだ」 朔夜の拒絶の叫びが、街中に響き渡った。 *** 「あー楽しかったなぁー」 篝火は、スキップを踏みながら帰路についていた。パン尽くしで楽しかった一週間を振り返ると、鼻歌を歌いそうになる。 「ちゃんと朔夜の面倒見てくれてたかなぁ? さすがに見てるよなぁ」 そんな心配なようなことを言いながらも、顔は上機嫌だ。すれ違う人々が、彼を訝しげな目で見ている。 「たっだいまー」 やがて家に着いた彼は、快活に扉を開けた。そして、固まった。 そこには、銀髪の花魁が憤怒の形相で仁王立ちしていた。奥からは、大爆笑の声が響いてきている。 「篝火!」 花魁――朔夜が怒鳴った。 「てめぇ、俺とパン、どっちが大事なんだぁぁぁ!」 (終) --- 同盟にて勘野様に篝火、朔夜、郁、斎の小説を書いていただきました。 思わず外出中だということを忘れて拝読しているときニマニマしていました。流れるような文章に拝読していると、その場のイメージが浮かんできます。 読んでいると楽しくて楽しくて仕方なかったです^^特に最後の朔夜の叫びが好きです← この度は小説を書いて下さり有難うございます! |