目が覚めたら、既に夕方だった。 彼はベッドから上半身を起こし、時計を凝視したままぼんやりとする。そして、しばらくしてやっと自分がこんな遅い時間まで寝てしまった理由を思い出した。 いつもなら朝起こしてくれる同居人――篝火がいないからだ。 その不在の理由は何だっただろうか。寝起きの頭で考えるが、なかなか思い出せない。何だっただろう、昨日確かに何か言っていたはずなのだが……。 「だりぃ」 結局、彼――朔夜は思い出すことを放棄した。それよりも、頭を使ったことによって余計疲れた気がする。もう一回寝よう。彼がそう思った、ちょうどその時だった。 「あーやっと起きたね」 聞き覚えのある声にのろのろと顔を上げると、そこには白づくめがいた。 斎だ。幼く見えがちの顔は相変わらず笑っている。丸みを帯びた髪の黄緑と服の白の色彩は起きたての目には少々眩しく、朔夜は目を細めた。 「……何でてめぇがいんだよ」 「あれー? 篝火から聞いてないの?」 不機嫌な彼に構わず、戸口に寄りかかった斎はそれと対照的な笑みを浮かべたまま言う。 「今日から一週間、街のパン屋ツアーに参加するって言ってたじゃん。忘れたの?」 「あー……そうだったか」 そう言えば、そんなようなことを言っていたかもしれない。あのパン好き具合は、全くもって理解し難い。どこにそんなに惹かれるのだろう。あのパン馬鹿が、と朔夜は悪態を吐いた。 「で? てめぇは何の用なんだよ?」 「篝火に頼まれたんだよ。留守中、君のお世話係を引き受けてくれって。……あ、心配しないで。お金はもうもらったから」 「してねーよそんな心配。つーかお前、あいつから金巻き上げたのか」 「うん、勿論」 「ケチだな」 「親しき仲にも礼儀ありってやつ?」 「使い方ちげぇよ」 「まぁいいだろ? それよりそういうわけだから、篝火がいない一週間、俺が起こしたらちゃんと起きてね」 「嫌だ」 即答したが、斎はさらっと無視して朔夜に食事を取ることを勧めてきた。長いこと眠っていて何も胃に入っておらず、空のそれがいい加減何か食べろと主張していたので、彼が作ってきたらしい料理を食べた。 斎は性格は悪いが料理は上手いと思う。朔夜が絶妙な味付けのそれらを食している間に、斎は櫛を持って来ると、彼の長い銀髪を梳きだした。 「いてぇ」 |