零の旋律 | ナノ
昏様から「赤の舞台で」



※微グロ注意



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 からり、硬いものが当たる音がして意識が戻る。
 辺りは灰色だった。暗く、埃っぽい濁った空気。建物の中のようだ。廃墟だろうか。
(……なんで僕、こんなとこに)
 頭が鈍く痛んだ。記憶が不自然に抜け落ちている。
 自分の状況を把握すべく薄暗がりを見渡していると、唐突に通る声が響いた。
「あーれえー? お客さん?」
 反射で動いた右手が、ナイフを握った。
 かつん、足音がして、灰色の中に銀色の光が見える。銀の髪をした長身の男が、笑顔で僕の方へ歩いていた。
「誰」
「誰え? おまえは誰え? ここってえ、俺の庭なんだけどお」
「意味分かんない」
「分かんない? 分かんないい? だからぁ、出てけってことお、かなあ?」
 男は笑顔で、気味が悪いくらいの笑顔で、真っ直ぐ僕を見ている。嫌な感じがした。ナイフを握る手に、力がこもる。
「貴方、僕の敵?」
「さあぁねええ、おまえなんてどうでもいいよお。でもお、邪魔だねえ。邪魔だねえ。消したいねえぇ」
 あははははははははははは。
 と、前触れもなく響いた。男の瞳は血のように赤く、狂った笑いが止まらない。
 男の足が止まったのを見て、僕は狙いを定める。あれは敵。あれは危険。あれは、消す。
「――っ!」
 ナイフを振りかざし薙ごうとした瞬間、右手が動かなくなった。鈍い痛みに目を細める。
 右腕に絡みついていたのは、細い銀の鎖だった。
「俺にー、得物ー、向けたー? ねえぇ、じゃあー、おまえは敵い」
 ポケットに突っこまれていただけのはずの男の手には、その鎖の端が握られていた。振るった動きも見えない。嫌悪感が滲む。危険。危険。危険。
「――君さあ」
 そこで僕の口から出たのは、何故か冷静で平坦な声。危険信号より先に、確かめたいことがあった。
「愛してる人っている?」
 男は、一切の動きをやめ、笑顔を一瞬だけ凍らせ、それからやはり笑った。
「俺にー? そんなのお、いると思う? 思う? どっちにしろぉ、おまえには言ーわなあい」
「ふうん。それじゃあ、僕は?」
「ええ?」
 僕にとって大事なことは、『それ』だけだ。
「僕を愛することは、できる?」
 薄く微笑みながら、少し止まった笑顔を見返す。男は、――少しの間の後、それはそれは可笑しそうに、笑った。
「おまえぇ、変なこと言うねええ! 変なのお、あは、ははははははは!」
「聞いてるんだけど?」
「そう、そうだねえ」
 ひとしきり笑うと、男は満面に狂った笑みを浮かべて、
「できるよお。愛して、愛して、ぐっちゃぐちゃにして、それからあ、捨ててあげるう!」
 それで終わり。
「捨てるなら愛じゃないよ。そんなの僕は望まない」
 空いた左手を、かすかに動かす。答えは決まった。
「君が僕を愛せないなら」
 男の表情が変わる。気付いている。僕も気付いている。
「――殺してやる!」
 一瞬で十分だった。
 抜いた拳銃を鎖に向け一発。千切れたそれを振り切り、ナイフを構えてそいつへ突き進む。
 詰まった距離で、ナイフの突き刺さる感覚。近すぎる距離で、男は笑う。可笑しそうな笑顔が、ナイフを突き刺されても続いて、
「痛くなあい」
 気付いて僕が離れた瞬間、空を裂いて上から刃が降りかかった。
 男の手にはナイフ。僕が刺した傷からは、確かに赤い血が流れる。
「いいよお、おまえ、気に入ったあ」
「じゃあ、愛してみる?」
「うん」
 からかうように言ったら、面白そうに頷いた。
「ぐっちゃぐちゃにいー、殺し合おうかああ!」
 男の言葉を合図に、二人は接近する。
 男は笑っていた。僕も笑っていた。
 嫌悪も危険信号も全部、愛の言葉に溶かされた。



赤の舞台で






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同盟にて昏様のお子さんアルミニウムさんと別創作D×Sから奈月のコラボを書いて下さりました!!私の好みクリーンヒットすぎる内容に思わず拝読しながら終始悶えニヤケておりました。
二人の狂気具合、奈月の愛の問いかけにドキドキしてしまいました。

この度は小説を書いて下さり有難うございます。


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