そして、何を思ったのかいきなりチョコから手を離したのだ。 当然、チョコは重力に引き寄せられ、その結果──… ──どっすん。 辺りにとてつもなく鈍い音が響き渡る。 どう見積もっても、チョコレートがテーブルに落ちたとは思えない音である事だけは確かである。 「…聞いたか? 今の音」 「チョコって、こんな重い音しないよな…? むしろ、川とかに転がってるデカイ石が落ちた音だよな」 引き攣った顔を引っさげながら、正直且つ正確な感想を述べる篝火と斎。 すぐさま郁からの非難の声が上がったが、そんな言葉はまるで耳に入っていない模様。 …と、ここで一つの転機が訪れる事となる。 「……るせぇ」 「おっ、朔じゃないかおはよー!」 「だからるせぇっつってんだろ黙れコラ人の安眠妨げんじゃねぇ!」 恐ろしく不機嫌且つ不愉快そうな声が、部屋中に響き渡る。 声の主──朔夜は背後に鬼神のオーラを背負いつつ、今にもブチ切れ寸前だ。 どうやら、隣の部屋で睡眠を取っていたようだが、3人の騒いでいる声で目を覚ましてしまい、こうして文句を言いに来たのだろう。 しかし、朔夜の不機嫌さに気づいているのかいないのか、斎の火に油を注ぐような発言で朔夜の怒りのボルテージはさらに増してゆく。 「それにしても朔夜…今までずっと寝てたのか? もう夕方だぞ…ってか、寝癖とんでもねぇ事になってるぞ」 「あン? 寝癖がどーしたそんなモン知るか」 撥ねたりうねったりと大惨事になっている朔夜の長い髪を指差しつつ、呆れた様子の篝火。 しかし、当の本人である朔夜はまるで素知らぬ顔。 …と、ここで何か思いついたらしい斎が、人知れず悪戯っぽい笑みを零した。 「ちょうどいい所に来たな朔〜、はい、あーん」 そう言ってずずい、と差し出したのは郁の作成した石…もといチョコ。 だが、事情を全く知らない朔夜にとっては、それが何なのかすら検討もつかないようだ。 |