一流のシェフのような腕前なんか無くたっていい。 愛情をたっぷり込めて作れば、何物にも変えられない程美味しい料理になるのだから…。 …とは、よく言うけれど。 全てにそれが当てはまるとは限らない。 愛情、という言葉では言い表せない程の料理も、この世には存在するのだから。 ◆◇◆ 「あー腹減った。買ってきたパンでも食うか」 輝くような金色の髪にバンダナが特徴的な青年──篝火はご満悦な様子で片手に抱えた紙袋を覗き込む。 紙袋からは、芳しい香りが漂い辺り一面に広がってゆく。 焼きたてのパンの香りは、不思議と食欲を刺激するものだ。 「篝火ってホント、パン好きだよな。毎日買ってるんじゃないのか?」 「まぁな、ってかパン美味いだろ? 皆の分も買ってきたから、皆で食うか」 篝火の傍らを歩く青年は自身の鮮やかな黄緑色の髪を靡かせ、彼の持つ紙袋をひょいと覗き込む。 すると、篝火はへらりと笑いながら黄緑色の髪の青年の名を紡ぐ。 「ってか、斎も食うだろ?」 「そうだな…折角だから貰っとくか。腹ごしらえもしたいしね」 折角の厚意は受け取っておこうと、斎はあっさりと頷いてみせる。 篝火は、買ってきたパンには紅茶が合うだろう…と紅茶を淹れるべくキッチンへと向かった…のだが。 そこにはすでに、先客の姿があった。 「…あ、2人とも丁度いい所に。頼みたい事があるんだが…」 黒い髪に、漆黒の衣装。そんな黒尽くめな青年の名を、郁という。 郁は篝火、斎の存在に気づくとそちらへ身体を向け、何やら縋るような視線を送ってくる。 「頼みたい、事…? 何だよそれ」 ──否。本当は聞かずとも知れた事。 台所に立ち明らかに何かを作った形跡があり、そして頼みたい事といったら一つしか無いだろう。 それでも尚、聞かずにはいられないのにはれっきとした理由がある。 その理由は、追々嫌でも痛感する事になるのだが…。 「私の作った料理を味見してくれないか?」 「……え?」 |