零の旋律 | ナノ
V



「何……してんの?」

「見ての通りだ」

 手にした皿を食卓に置き、郁は二人に向き直る。食卓の椅子には銀髪に一房赤いメッシュの入った青年が、半分眠って座っていた。

「朔夜が腹減ったとか言いやがるから私が作ってやったんだ」

「なっ……! おいコラ、この低血圧野郎! そんな事言ったのか!」

 斎を押し退けてつかつかと室内に踏み込んだ篝火が、朔夜の肩を掴んで勢い良く揺さぶった。

「あ゛?」

 思い切り不機嫌な声が響き、朔夜が顔をあげる。ようやく覚醒したことを確信し、篝火は同じ言葉を繰り返した。
 言葉の意味を理解した途端、朔夜は眉間の皺を深くする。

「知るかバカ。俺はンなこと言ってねえ」

「……だろうな。寝ぼけてたんだろ、どうせ」

 もうどうでもいいやと肩を掴んでいた手を放す。
 それよりも今は食卓上のモノをどうするかが問題だ。

「斎、朝飯くっ……」

「ああ、俺朔夜の顔見に来ただけだからもう帰るよ。じゃ!」

 皆まで言わせずすちゃっと片手をあげて、斎は素早く姿を消した。

「あ、逃げんな!」

 朔夜が後を追おうとしたが、それは横から伸びた手に阻まれた。

「腹減ってんだろ。さっさと食え」

「ざっけんな! こんな危険物食えるか!」

「作れっつったのはてめえだろ。責任持って完食しやがれ」

 冷静な郁と口汚く相手を罵り始めた朔夜。そんな二人を少し離れた所から見つめていた篝火は、ため息をついて額を押さえた。
 君子危うきに近寄らず。
 あの二人は放っておくにしても、食卓上の料理とは言えない危険物の処理はどうするか。そして──。

「あーあ、昨日買い出しに行ったばっかなのに」

 どうやら臨時収入の使い道は、今後の食費に消えてしまうことになりそうだった。


END


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同盟にて、和泉様の文章でうちの子を書いていただけました!!な、なんと魅惑的な文章なのでしょうか、読んでいる最中にやけっぱなしでしたよ!!
篝火の臨時収入の使い道が食費行きとか、物語の纏まりに読んでいてその光景がイメージとして浮かび上がってきて物語に浸っております!!
この度は小説を書いて下さり有難うございました!!




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