零の旋律 | ナノ
灯里様から「異世界協奏曲」



 学園の一角にある修練場にて、相対する二人の少年の姿があった。一人は青灰色の髪に星屑を彷彿させる銀の瞳。
 もう一人は鮮やかな朱色の髪と空色の瞳を持つ少年。二人共、学園指定の制服を纏っている。
 二人の距離は約五メートル弱。

「手加減するなよ?」

「レヴィこそ」

 朱色の髪の少年――レヴィウスが冗談めかして笑うと、青灰色の髪の少年――シェイトも笑う。
 シェイトもレヴィウスも全力を出せる機会があまりない。授業ではいつも加減しているし、同学年ではお互い以外に勝負になる生徒はいなかった。
 武器は必要ない。今回は魔術の勝負なのだから。

 紡がれる精霊の詩。
 二人を邪魔するものは何も無い。全く違う二つの歌が混ざり合い、不思議な響きを生んだ。
 シェイトもレヴィウスも分かっていた。楽しいのだ。楽しくて堪らない。

『汝、紅蓮の輩にして焦熱の使徒。炎神の化身たる火柱は天を突き、空を紅き色に染めるだろう。猛き焔の意思よ、我が声に応え、我に害為す者に裁きの鉄槌を下せ。具現せよ、浄罪の焔。レイジング・フレイム!』

『汝、深き闇の淵にて眠りし氷姫にして銀盤の主。遍く氷界を司り、氷雨を従える者よ。我が旋律にて目覚め、其の優麗たる腕を持ちて、彼の者に冷厳なる蒼氷の祝福を。集え細氷! ダイヤモンド・ダスト!』

 描き出される赤と青。相反する魔法陣。火属性上級魔術、レイジング・フレイムと水属性上級魔術、ダイヤモンド・ダスト。
 魔術が発動した瞬間、爆発が起き、二人の視界は白い光に満たされた。


 どれくらい、そうしていただろう。
 気づいた時、シェイト達は見知らぬ場所に立っていた。先ほどまでいた修練場ではない。学園でないことは確かだ。
 内装からすると城、なのだろうか。白い大理石が敷き詰められた床に、真紅の絨毯には金糸で獅子の刺繍がなされている。
 天井から吊り下がるシャンデリアには、カットされた美しい硝子が使われていた。

 一点の染みもない壁には、名のある芸術家の作品であるだろう絵画が飾られている。その額縁も黄金で出来ており、目に入る全てが高価なものだ。
 レヴィウスの実家であるセレスタイン本邸に似ているが、セレスタイン家の屋敷ではないことは空気で分かる。

「……なあ、シェイト。俺たち今、同じ事考えてないか? 普通に考えたらあり得ないことだけど」

「ああ。でもここは学園でもなければ、俺たちの世界でもない」

 苦笑いを浮かべるレヴィウスに、シェイトも真剣な表情で首肯する。
 考えたくはないが、その答えにしか行き着かない。『ここ』はシルヴァニスではないのだ。
 世界を感じる魔導師の勘が教えてくれる。ここはシルヴァニスではないと。
 到底信じられないが、現実から目を逸らすことは出来なかった。

「……だよなあ。あの魔術で飛ばされたとか? ここはどこかは分かんないけど、どうするよ?」

「どうするって言っても……」

 分からない事だらけだ。シルヴァニスではないことは確かだが、ここはどこなのだろう。
 先ほどから誰一人見かけないが、人がいない訳ではない。気配は感じる。
 どうにかしたいのは山々だが、流石にここで上級魔術をぶっ放す訳にはいかなかった。周囲の被害を考えれば、とてもそんな無謀なことは出来ない。

 さて、どうしたものか。シェイトがそう思案した時、飛来する銀閃。咄嗟に大鎌を生み出してそれを弾き飛ばす。
 どうやら大気中から鎌を作り出すことは出来るらしい。

「お、おい、シェイト。大丈夫か!?」

「一応は。咄嗟に弾いたけど……」

 ただ、今のシェイトは慌てるレヴィウスなど目に入らなかった。銀閃――ナイフを投擲したであろう人物を見ていたから。
 外見はシェイトたちと同じ、十六、七歳だろうか。鮮やかな橙色の髪に茶の瞳。名も知らぬ少年は、油断なくこちらを見据えていた。








 カサネは一人、廊下を歩いていた。報告以外の一通りの仕事は既に終わっているた

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