零の旋律 | ナノ

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「いつ……攻めるか」

 物的証拠は何もないし、是は全て僕の憶断。
 もっとも証拠を探したところで何も発見できないだろう。
 証拠が出てくる程度の相手なら、僕が態々此処まで時間を割く必要性なんてない。それこそ軍に任せておけば捕まる。
 恐らく全力で戦ったところで、僕の実力では彼には勝てないだろう。僕の本分は策を練ることだし。

「さて、どうしたものか」

 書類を投げ出して、手を後ろに回す。小休止。
 書類を投げ出した結果、床に紙が舞ったけどまぁいいや。後で片付ければ済むことだし。
 厄介な相手をするときは此方もそれ相応の策を練ってからじゃなきゃ、一つじゃ駄目、二つ三つと容易して、確実に勝算が持てるようにしないと。一つ覆されて終わりだなんてことが起きたら間抜けもいいところだ。証拠がない、自白も恐らく無意味、となると――ステールメイトに持っていこうか。



 ――天平にかけて悪いね。でもこれが僕に出来る最良のことだよ。


 さて、計画を立てないと。一瞬、刹那でいい。彼に隙を作らせないと。
 デモンストレーションでもやってもらおうか、一瞬だけ視線をそちらにするために……理由は適当にでっちあげておこう。

 案の定、律君はやって来てた。毎日のように僕の様子を伺う為に足を運んでいたのだろうね。僅かな油断が致命傷となるのなら、その油断も隙もなくすために。
 でも、今回は僕の勝ちだ。いや、ステールメイトか。今度チェス盤でも買おうかな。

「志澄律君」

 一瞬だけ視界が彼らに向いた時、声をかける。タイミングを誤ってはいけない。
 手法を誤ってはいけない。一つでも手順を間違えれば、この距離なら一瞬で殺される。

「取引をしないかい?」

 僅かに笑顔を作り近づく。律君は驚いた表情をしている。
 あれ? そういや、律君ってピンク帽子が特徴ってきいたんだけど、今日は被ってないんだね。

「……取引?」

 少し考えてから返事をしてきた。そりゃあ僕が相手じゃ慎重にならざるを得ないよね。自意識過剰じゃないよ。そちらに特化したのが僕なのだから。それだけ。得意とするフィールドが違うだけ。

「そう、あの無罪君。君のせいではめられたあの無罪君の無罪だという“証明”を」
「証明ね、それをして俺にメリットは?」

 律君は惚けたりしらをきるつもりもないようだ。計算通り。誤魔化せない相手と対峙する時に誤魔化そうとするなんて不毛でしかない。


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