零の旋律 | ナノ

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「言われた通り、資料持ってきましたっ……」

 荒勢君、何も顔が隠れる程紙束を持ってこなくてもいいよ。二回に分けてもってくればいいでしょ。ってかその両手がふさがった状態でどうやって僕の部屋の扉を開けたのさ。

「あ、有難う。その辺にでも置いておいて」

 そんな疑問は華麗にスル―して(というかスル―するしか出来ないんだけど)
 さて、沢山の書類の中からまずは征永のここ最近の動向を調べないと……。
 様々な書類の中から一つのことに目がとまった。
 ……此処から先に進むには荒勢君は来ちゃいけないね。悪いけど今回の物語からご退場願おう。


「有難う、荒勢君今回は手伝ってくれて、此処まででいいや。後は僕がやる」
「な、なんですか!?」
「此処から先は首を突っ込まない方が荒勢君の為だ。まだ死にたくないでしょ?」

 息をのむ音が聞こえた。言い返そうとしているのに、荒勢君は言葉が見つからないのだろう。

「此処から先は何もしない方が荒勢君の今後の為だよ。まだ君が見てはいけない領域の代物だ。荒勢君」
「なんですか」
「この領域まで足を踏み入れたくば、実力を積んで覚悟を決めておいで。出世して闇と腐敗を垣間見て、それでもなお知りたいと思うのならばその時に此処においで。その時には教えてあげるから」

 それが君が生きている間に来れるかわからなくても
 それが、君の求めるものでなくとも
 その時、君が真実を知りたいと願うのなら、僕は答えを用意しておくから。

 でも、その答えを君は絶対許せないだろうね。


「わ、わかりました」

 納得はしていないようだったけど、荒勢君は大人しく引き下がった。
 もっとも荒勢君も理解しているのだろう、この言葉に“命令”をつけられたら一介の新米軍人では従わざるを得ないことに。
 荒勢君はご丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。

「さて――玖城か……やっかいなところだな」

 資料の中に違和感を見つけた。
 といってもそれは確証にいたることではない。でも僕はその違和感から何か企んでいるだろうと憶測した。資料や報告書を色々と見比べると小さな矛盾を見つけたから。玖城に何かしようとしたのかな……それなら玖城が先に始末した……いや、それはないか。
 あそこの当主はまだそこまで壊れていない。壊れていることは確かだけど、幸せな家庭を見て惨殺しようとは思わないだろう。そこまではいっていない。是から先はどうなるかわからないけど。
 幸せな家庭は玖城が望んでも決して手に入れることの出来ないモノだろうから。
 となると……玖城に忠誠を誓っている志澄の人間か?

 志澄……律。
 志澄家は死霊使いって恐れられている一族だから遠距離からの魔術系統が得意に思われるけど、本分は玖城家を守護する騎士の過程。
 志澄律は確か今まで未完成だった死霊使いの力を完成させたと言われている。
 ならば魔術系統の知識もあろうだろうし、騎士なら身のこなしも相当のてだれ……。
 うん。当てはまった。彼は例えどんな幸せな家庭だろうが、例えそれが一部の人間が内密に進めていることだろうと、それに関わってしまった全ての人を許さないだろう。

 抹殺して、その手を赤く染めているだろう。彼のあだ名す者、それは玖城にあだ名す
敵。


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