零の旋律 | ナノ

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「そう、つまり今も何処かでこの会話を盗み聞きしていて、次の策を練っているのかもしれないね」
「はぁ」
「でも、“練っていることすら作戦”かもね」

 荒勢君は顔に疲労が見え始めてきた。若いうちから(といっても僕より4つくらいは年上)そんな疲労ばかりしていると将来髪の毛まっさらになるよ。って僕のせいか。
 そうなったら最新の育毛剤をプレゼントしないと。最高級の。

「いくらねぇ、蟻の這い出る隙間もないなんてことは出来ないだろうしねぇ。征永の一族の中で出来る限りの最上級の警備をひいたとしても、それ以上の力を持っているモノがいれば。うん、大体犯人像は見えてきそうだね」
「ちょっと待って下さい」

 流石に荒勢君も気がついたか。此処まで話して理解出来ないほど熱血漢馬鹿じゃなくて良かったよ。別に熱血漢は馬鹿なんて方程式は持ってないよ。ただ、荒勢君が熱血漢だからって話。
 荒勢君が止めるのもわかるよ。
 犯人が傍で聞いているかもしれないと気がついていながら、態々手の内をばらすような真似をする必要はないもんね。でも――そのお喋りが重要なんだよ。荒勢君。
 そう“お喋り”

「相手を混乱させる為に一番便利なことでしょ?」

 ただのお喋り。それが犯人を混乱させるための作戦の一つだよ。
 どちらかが本当か、どちらが真実か、表か裏か。

「さて、どちらが裏でどちらが表でしょう。いや、両方裏と裏の可能性もあるけれどもね」

 姿なき犯人に向けて僕は語りかける。
 姿は見えないし、僕程度の力じゃあ、君の気配を探ることは出来ないけど
 でも、此処にいることは確信するよ。


 さぁ、君は次にどんな手を使ってくるんだい?


「さて、帰ろうか」

 充分策をばらまいた、後はどれか一つに君が引っかかるだけで構わない。
 糸よりも細く目には決して映らない言葉の糸をね。
 といってもこっちもまだ犯人が確定したわけじゃないから、色々と調べることがあるけど。
 こっからは玖城の情報網に入らないように気をつけないと――。まぁ玖城がどのようにして情報収集しているかなんて、僕が一生かかったって理解できないことなんだろうけど。


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