零の旋律 | ナノ

V


「色々と態とらしいんだよねぇ、いや、態とらしいと感じるのは僕がひねくれているからかもしれない。けれどそうとしかとれないように違和感が……いや、逆か。違和感がなさすぎるのが違和感なんだ」
「へ?」

 荒勢君ごめんね。流石にわからないよね。多分僕の部下にいっても同じ反応をされたよ。

「違和感がないんだよ。何もかも不自然さがまったくない。全くなさすぎる。恐怖する程に、全てが自然なんだよ。プロフェッショナルすぎる……絶対何かある。うん、引き受けた以上最後までやるよ」

 今日の処はこれでおしまい。一旦引き返そう。これ以上此処にいても今日は得られる物はないだろう。
 今日一番の収穫は『違和感』だね。



 僕は自室で――折角だから荒勢君を暫くの間巻き込むことにした。
 もっともこのままいけば真っ当な結末は待っていないだろうけれども。流石にその結末までは荒勢君には見せられないね。見せてはいけない闇の部分。
 まぁ、現在の段階では全て憶測でしかないのだけど。
 椅子に座るように進めた荒勢君は周囲をそわそわと落ち着きなく見ている。
 まぁ僕の自室に入れるなんて機会は早々ないだろうしね。
 でもそこまでそわそわされると逆に僕が気になるんだけど……。

「さて、此処で問題です。荒勢君。今回の犯人は一体どんな人だと思う?」
「えっと……」
「気楽に答えていいよ」
「その筋のプロということは……暗殺者の仕業では?」

 暗殺者か、まぁ……

「まぁいいところかもね。暗殺者なら……それも実力者ならあの程度のことは問題なく可能だね」
「えぇ」
「そうだね、一回暗殺者視点で調べてみるのもありか」

 まぁ暗殺者ではないのだろうけど。あの位の暗殺者となると数は限られてくる。まずはその辺の組織なら愧烙(きらく)か白銀一族の暗殺者しかいないだろうね。白銀……が犯人だったとしたら捕まえられないね。あそこは法によってその存在が守られている矛盾と例外の一族。分家だとしても水霧か朝霧か夕霧か……どれにしたって相手にするべきじゃないね。

「本当ですか」

 自分の案が採用されたことが嬉しいのだろうか、少し元気になったように思える。本当単純で可愛いねぇ。

「まぁ。暗殺者ではないだろうけど」
「そ、そうなのですか」

 落胆まるわかり。

「だって、暗殺者じゃないって証拠を残しているんだもの」
「証拠?」
「そっ、暗殺者なら、人を殺した後態々金目の物を盗まないよ。まぁ……それこそ金銭的に余裕のないものならわからなくもないけれど、あの警備を潜り抜ける暗殺者なら、暗殺の仕事で報酬をもらえる。むしろ金品を物色する時間を危惧するはずだから、あの場に長いはしない。そんなことで足がついたらそれこそ元も子もないからね」
「な。成程」

 理解してなさそうだけど……まぁいいか。僕だって詳しく説明していないし。適当に荒勢君が納得しそうな理由をでっちあげただけ。もっとも本当の中に嘘を混ぜただけ。

「つまり、暗殺者ではない。でも暗殺者には近い存在かもね」


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