水波サイドT 始まりは頼まれたから ――それだけだった。 お願いしますと懇願された。 大切な親友が殺されたから、そう言ってきた彼は、僕に土下座までしていた。必死さが伝わる。そこまでされたら僕だって何もしないわけにはいかない。 何か出来るかなんて僕の知るべきところではないけれど―― まぁ、現場に赴いて思考することくらいなら出来る。 そうして僕は征永の家に赴いた。中位貴族のだけあって屋敷は豪華だ。 一般市民にとっては遠い場所であり、疎ましい場所であり、様々な思考渦巻く場所だったんだろうね。 僕は此処に来る前に、適当に見つけた新米の軍人を連れてきた。 何かあった時にも役には立ちそうにもないけれど、訓練であり講義だとでも思ってくれればいいか。 もっとも現在は畏まっちゃっているけど――まぁ仕方ないか。 そんな畏まらなくてもいいのにね。 「へぇ……」 屋敷の中に踏み入れた途端、僕の印象は変わる。なんていうか、大したことがないんだろって思っていた僕の油断が一気に吹き飛んだ。 どうしようもない違和感が僕の感覚を掴んで離さない。 「どうしました?」 入口付近で立ち止まった僕に新米軍人荒勢(あらせ)君は遠慮がちに僕に聞いてくる。 まぁ、自分で言うのもあれだけで天才軍師と呼ばれる僕と新米軍人じゃあ階級に差がありすぎるから当然か。でも年下に精神使うのって疲れそうだね。 「ん、なんでもないよ」 この違和感の正体を突き止めるために現場に向かう。 現場に行けば、違和感の正体がさらに濃くなることを知っているから。 「やっぱりねぇ……」 ドアノブを開けて(勿論不要な指紋が付着しないように手袋をはめているけど)部屋の中に入る。 現場検証も澄ませてあるから、血痕とかも一応ふき取られてはいるけれど……そのうちいわくつきの屋敷として安値で売却されそう。売りだし文句にルミノール反応バッチシとか書くのだろうか……誰も書かないよね。 「やっぱりとは?」 「んーあぁ、まぁ違和感があるっていえばいいかな」 「違和感?」 「そう」 辺り一面を見回す。 僕の本職は犯罪者を見つけることじゃなく、どうすれば最短で最小の被害で物事を出来るか作戦を練ることなんだけどね。 結果に向けて最初を組むのと、最初を見るけるために結果を見るのって……大分違うよね。始まりがそもそも違うんだから。 いやまぁ。一緒っても言われそうだけど、厳密には違うよってあの子にいってあげたいなぁ。 犯人は今も何処かで潜んでいるのだろうか。 ……ならば、作戦を練るだけ。言葉に乗せて。 [*前] | [次#] TOP |