零の旋律 | ナノ

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「色々考えたんだけどね、君と言う駒は厄介すぎる。征永の一族には悪いけど、僕は生きている人間を救う。話してしまったからね。全く見ず知らずの人より出会ってしまった人の方に感情が動いたんだよ。でも、残酷だよね。いつも通りってのは」
「だな」
「こうして、じかに見ると実感するしかない。否応なく実感させられる。結局誰かが死んでも、何も変わらない。根本の物は何一つ変わっていない、人が死んでも明日はやってくる。明後日もやってくる。そして歴史は流れ過ぎ去っていく――残酷だね」
「話を戻せ」

 俺は天才軍師に話の流れを戻させる。

「そうだね、志澄律君。君を僕は見逃す。その代わり無罪君の無罪を立証して」
「……いいだろう」
「へぇ、案外素直だね。まぁそれで事件が迷宮入りするのなら、君のリスクはもっとも少ない」
「もっとも少ないリスクを叩きつけてきたのはお前なはずだ」
「まっ、そうだけどね。じゃあ交渉成立」

 交渉成立――俺はもうこいつと話す用はない、天才軍師の前を通り通り過ぎようとした時、天才軍師の策略を知ることとなる。

「君は憐れだね」

 無視すればいいのに、足を止める。

「君は憐れだね」

 イラつくことに同じ言葉を二度も繰り返す。

「何故、そう思う?」

 天才軍師は俺の前を向こうとはしない。背中合わせの状態で俺らは会話をする。

「普通を望まなかったから」
「……」
「自ら生きる為に、大切な部分を封印したから」

 何も答えない。

「数多の呪詛から身を守るためにただ一人を求めたから」

 天才軍師は続ける続ける。耳触りな言葉の羅列を

「強がりだね」

 ひと言ひと言場酷く耳触りだ。脳内を反響する。

「君はさぁ、強がりなんだよ。愛情とか、悲しみとか、理性とか、優しさとかそういった感情たちを君は封印した。他人を殺し続ける為に、他者の人生を狂わせるために封印した。幾重にも巻き重ねた鎖を君はもう君自身で解くことは出来ない」

 何なんだ、こいつは

「玖城の人間だけが、君の拠り所。君の唯一の場所」
「そうだ、それ以外何もいらない」
「ほら、そうやって拒絶して、どんどん自らの封印の枷を増やしていく」
「……」

 例え天才軍師と呼ばれていようとリスクが大きくなろうとも、今此処でこいつを殺すか、そう思い始めた。

「憐れだ、憐れ」
「黙れ」
「君はこれからも人を殺し続ける。ただ部屋に掃除機をかけるように黙々と。野菜をまな板で千切りするように淡々と」
「必要とあれば」

 必要とあれば誰だって殺したって構わない

「善悪の報は影の形に随うが如し……だよ、君も僕も」
「汁を吸うても同罪ってか」
「そういうことだね。さぁ、早く僕の後ろからきえなよ。僕は君の心を抉る真似しかしないよ」
「いわれなくても去るさ。お前の言葉はイラつく」

 そう言って俺は歩き出す。もう天才軍師は俺に言葉をかけてこなかった。
 とりあえず、約束は守る必要がある。否、別に守らなければならない約束ではない。
 ただ守っといた方が得をする約束だから守るだけ。


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