零の旋律 | ナノ

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「証明ね、それをして俺にメリットは?」
「メリットか。うん。そうだね、僕は律君を捕まえることは出来ないね、証拠がない」
「あぁ」

 ともすればこの会話の時点で自白ともとれるだろう。
 音声録音でもされたらおしまいだろうが、それならばこの天才軍師を殺すだけ。
 相手もそれをわかっているから、“取引”にしたのだ。

「そう、この場で仮に自白ととらえて捕まえたとしても、君の犯罪を立証することは出来ない。そう君の存在がネックだった」
「だろうな」
「もしも僕が、君が犯人だって騒ぎ立てれば問題がないかもしれない。一般人ならば」

 天才軍師として名高い水波が、確かに証拠はないけれど結論を言えば、それが証拠と採用される場合もあるだろう。一般人ならば、そこを崩すことは天才児にだって出来ない。

「そう、君は玖城家に仕える志澄家。上位貴族の人間だった。中位貴族の征永より、高位貴族だ。貴族を相手にする場合って結構不便極まりない」
「便利だよな」
「そして最悪でもある」
「お褒めのお言葉光栄です」

 天才軍師水波と直接的に話すのはこれが初めてだった。王宮に俺が足を運ぶことは滅多にない。

「君は自らの地位で自らを守る壁とした。まぁそんなのは最終手段でしかないんだろうけれどもね。君が此処数日間でしたことは徹底的に証拠を潰すこと。消すことじゃないよ。消すことはすでに君が犯罪を犯したその日にしていること。だから今回やったのは潰すこと」

 天才の名は伊達ですらないということか。
 俺は黙って水波の話を聴く。


「つまり、僕がいくら君に、どんな方法で辿り着いたからといっても君を捕まえる証拠が何もない。ならば君に証拠を作ってもらえばいい」
「例えば?」
「君が犯人で、今捕まっている無罪君に沢山の証拠をかぶせたのならば、それらを不意にする証拠自体容易できるでしょ? 君は“アリバイ”がないのだから」

 アリバイ、そう実行犯が俺である以上俺にはアリバイがない。もっとも誰かを利用すればアリバイなんていくらでも作れる。一番簡単な方法は四大貴族と呼ばれる最上級の貴族の“友人”にアリバイ立証を頼めばいいだけ。むしろ、頼まなくても状況を察して勝手にやるだろう。

「つまり、一番簡単な方法。何処かで君が無罪君を“見かけた”そう主張すればいいだけ。上位貴族の志澄家の言い分を疑う人は誰もいない。ましてや君は犯人だ。それを覆す証拠をつくる必要はない」

 成程、犯人がその時間犯行が不可能だと証明されさえすれば俺が濡れ衣を着せた相手は釈放されると、まぁ一番合理的かつ簡単か。

「……俺が見かけたそう証言することで、お前は俺を見逃すってことだよな」
「うん」

 あっさりと天才軍師は答える。

 死んだ人間より生きた人間を救うか。


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