零の旋律 | ナノ

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 そして、数日後軍人の捜査のかいがあって犯人が捕まった。
 正確にいえば冤罪。俺によって濡れ衣を着せられた犯人。
 犯人が捕まれば天才軍師ももう出てこないだろう、そう思っていた俺の予想は安易だった。
 天才軍師水波だけが、捕まった犯人を無罪だと信じた。勿論犯人は容疑を否認している。やってもいないことを認めることは早々しないだろう。それこそ取り調べに問題でもない限りは。
 天才軍師水波が再び屋敷を訪れている。それを俺はこの間と同じ場所で盗み聞きをする。相手の足音から考えて、この間の使えない素人丸出しの馬鹿が一緒のようだ


 まぁ、俺としても天才軍師様の推理の補足が聴けるから有難いんだけどな。
 といっても天才軍師様は別に推理しているつもりはないのだろう。ただ、自らの疑問を想ったまま口にして物語として一つ一つ繋ぎ合わせているだけ、それが推理とよべる物、他の人から見れば。ただしそれは他の人から見たらという場合でのみで、天才軍師様から見たらまた別物になる。

「……犯人があっさり捕まりすぎるよ」
「良かったのではないですか?」
「違う、あれは無罪だ。僕の直感でしかないけど」
「その直感の理由を伺っても?」
「うん。しいていうなら、当てはまりすぎている。犯人の条件に合いすぎている。それにおかしいのはそれが後だしじゃんけんのようなものだから」
「後だしじゃんけん?」
「そう、後だしじゃんけん。こっちの手を見たからこそ、対策を練ったって可能性もあるってこと」
「それは不可能なのでは? 厳重な警備体制が引かれていますし」
「何を言っているんだい? 元々此処は貴族の屋敷で警備は厳重だった。なのに犯人はもろともせずその警備をかいくぐった相手だよ。だったら今も何処かでこの会話を耳にしていたっておかしくはないじゃないか」

 予想外。予想以上。想像以上。範囲外。
 天才軍師水波の能力は正直最初が考えていたものを遥かに上回っていた。
 今回の策が壊されるのも時間の問題だろうな。

「そう、つまり今も何処かでこの会話を盗み聞きしていて、次の策を練っているのかもしれないね」
「はぁ」
「でも、“練っていることすら作戦”かもね」

 天才軍師の顔が見えたら今不敵に笑っていることだろう。相手の表情から何かを考えたいところだが、それをしたら九分九厘俺の存在に気がつかれる。
 いくら相手が策を練るのが本分の軍師様だとしても。天才軍師水波の戦闘能力は確かと記憶を手繰り寄せる。弓を使った百発百中とまではいかなくても、かなりの確率で的を的確にいることが出来る。


「いくらねぇ、蟻の這い出る隙間もないなんてことは出来ないだろうしねぇ。征永の一族の中で出来る限りの最上級の警備をひいたとしても、それ以上の力を持っているモノがいれば。うん、大体犯人像は見えてきそうだね」
「ちょっと待って下さい」

 天才軍師が喋ろうとすることを止めようとしている。その理由はまぁ明確だな。
 何故犯人が傍で聞いているかもしれないと気がついていながら、態々手の内をばらすような真似をして、お喋りをしていくのか。

 そう“お喋り”


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