零の旋律 | ナノ

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「んーこれ相当テダレだねぇ、一度や二度のレベルじゃないよ。何度も殺して殺し慣れている」
「猟奇的殺人では?」

 天才軍師水波とは別に他の声も聞こえてくる。

「いんや、違うよ。別に無差別殺人犯ではないねぇ」
「何故?」
「だってさぁ、ここ魔術無効化の警報術式があちらこちらにあるじゃん。誰かが術を発動しようとしただけで結界にとらわれるんだよ」
「なら、術を一切使わなければいいのでは?」

 当然だろう、術が使えないなら術を使わなければいいだけ。屋敷に侵入する際に必ずしも術を使用する必要することもない。

「何言ってんの術だけの防犯システムしか設置しない理由は何処にもないじゃないか」
「あ……」

 今頃気がついたのか、天才軍師の隣にいるのはどうやら素人の馬鹿らしい。馬鹿が多いほうがこっちは犯罪を犯しやすいから助かるってものもあるが。
 そう、この屋敷の魔術無効化警報術はただの目くらまし。魔術を使わないで室内に侵入出来たとして、あちらこちらに侵入さ対策の物が大量に設置されている。扉一つあけるのにも容易にピッキング出来ないような鍵穴になっている。態々一つ一つの扉を特注品で仕上げているのだろう。

 もっとも人が活動している昼間で、扉ごとに鍵をかけていないようならば、また別なのだろうけれど、目撃者が多くなる昼間に俺は行動しない。
 死亡推定時刻も監察医の手によって判断しているだろう。


「だから、目先だけの防犯にとらわれない。つまりプロフェッショナルだよ」
「しかし、それだけでは……」
「それに、魔術無効化警報術を作動させないっでさらに他の防犯システムを一つも作動させていないってことは、魔術に関しても並大抵の技術じゃないってこと、さらに他の面に対しても一つ一つが秀でているよ。無差別殺人じゃない、これは私怨だね。それにその辺の素人がやったわけでもないよ。素人なら防犯システムを作動させる。それにそれだけじゃない」
「というと?」

 まずいな……

「賊に見せかけて態々金品を盗んでいることも態とらしい」

 態とらしいの部分を強調する天才軍師水波に俺は感心した。それと同時に別の策を思索する必要が出てきた。そう、犯人を仕上げること。事件が起きたならそこに犯人がいる。偶然だろうと悪意があろうと偶々だろうと不運だろうとなんだろうと……。


「色々と態とらしいんだよねぇ、いや、態とらしいと感じるのは僕がひねくれているからかもしれない。けれどそうとしかとれないように違和感が……いや、逆か。違和感がなさすぎるのが違和感なんだ」
「へ?」

 とうとう天才軍師様の言葉に、隣にいる人物は間抜けな声を出していた。
 まぁ天才軍師の言っていることは突拍子のないことばかりなんだろう。実際。

「違和感がないんだよ。何もかも不自然さがまったくない。全くなさすぎる。恐怖する程に、全てが自然なんだよ。プロフェッショナルすぎる……絶対何かある。うん、引き受けた以上最後までやるよ」

 天才軍師の最後の言葉に俺はそこを後にした。物音を一切立てていない足運びに誰もその場にいたことに気がついてはいないだろう。


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