W 血が拡散する血臭が周囲に立ちこむ。血が血が血が血が血が血が その血にまみれながら俺は嘲笑する。その手に握られているのは赤を滴らせる大鎌。 そしてそのまま岐路につく。誰にもその姿を見られることなく―― すぐに貴族の屋敷の異変に気がついた誰かが通報する。 そして彼らは現状を目の当たりにした。息をのむものもいた。 俺はそれを誰も気づきそうにない場所で腕を組んで現状を眺める。 現状に近い場所にいることが、現在の彼らの動きを正確に把握できるからだ。 最初は捜査を行う。いつも通りの光景。何も変わったことはない。 そしてこの事件は不可解な事件として迷宮入りして終わるだけのはずだった。 目撃者もいなければめぼしい証拠もない警報魔術が作動した形跡も何もない。 ある種密室とも呼べる惨状に、誰も犯人を突き止められない。それだけなのに。 是から先は普段と違った。 俺が良かったと思ったのは自宅でのんびりしないで、事後まで見届けようとしたことだろう。 数日後、現状に姿を現した予想外の人物に俺は息をのむ。 ――天才軍師水波 何故彼が此処にいるのか俺には全く理解出来なかった。 俺は貴族の屋敷の二階――ベランダの上に乗り、誰にも見られないように周辺の様子を先ほどよりも念入りに見る。若くして軍師の地位に就いた天才児。その天才ぶりは各地にあまねいている。 「……なんで、あいつがいるんだよ」 耳を澄ませて目を閉じる。聴覚を最大限に利用する形で会話を聴きとる。 「んー僕は予め用意された駒の中で、どうやって駒を動かしていくかが得意なんだけど、今ある現状を推理して結論までもっていくのは苦手なんだけどなぁ」 ぶつぶつと呟くのが聞こえてくる。けれど決して嫌がっていたり愚痴をこぼしているつもりはない。 もっとも喜んでいる様子も一切ない。 「まぁ、知り合いに泣きつかれちゃやるしかないか」 成程ね、頼まれたのか 「んー」 そういって水波は周囲を眺めているのだろう。天才軍師が殺人事件に関わるとは到底予想出来なかった俺にとっては油断出来なことだ。もっとも証拠がつかめるとは到底思えないし、俺が誰かに捕まるとも思っていない。別に自意識過剰でもない。ただ――そういう風にしてあるから。 [*前] | [次#] TOP |