V 「まぁ、いいや……あぁ、そういうことか」 目の前の出来ごとに俺は納得した。何故泉が今回は殺すことを躊躇したのか。 俺はすでに泉と郁以外には別に誰が死のうと構わなかった。 泉も同じ心境だろう、けれど泉と俺には決定的な違いがあった。 誰が死のうと構わないから、誰を殺そうと構わないという俺と 誰が死のうと構わないから、誰かが何処で死のうと構わないという泉と。 どちらもどちらで周りから見れば狂っているだけの奴らなのかもしれない。 けれど俺と泉にはそこに決定的な違いがある。 泉は不必要に自ら人を殺すことをしないということ。誰かが何処で死のうと構わないということは、誰もかれもを殺す必要はないということ。何れ死ぬのなら―― 目の前で微笑む楽しそうな“家族”の顔が見える。 「さぁ、何処へ行きたい?」 「んー何処でもいいなぁ、皆で楽しく遊べるなら」 「私も私もー」 「そうねぇ」 四人家族、ほほえましい姿が映る。“幸せ”な光景と他人は評価するだろうか。楽しそうに笑う兄と妹。手を握っている。母親の手には是からピクニックでもいくのだろうか、バスケットを握っている。日焼け防止の麦わら帽子がよく似合っていた。 「……これだけのことで躊躇したのか」 もしも人間らしい“心”という基準が存在しているのであれば、俺はとっくに壊れているのだろう。一片の欠片もなく修復不可能な程。原型はすでに留めていない。 泉のその感情が何なのかはわかる。けれど理解することは出来ない。 「泉が躊躇したとしても、俺にはこんな光景一体何になるっていんだか。俺を感動で心を突き動かす道理にならない」 感動のドキュメンタリーをいくら魅せられても、俺は多分涙一つ流さないのだろうな。 別にそんなことに後悔をする気はしないが。 ってか、俺を変える為には多分生まれたときからやり直さないとな。 いくら幸せな家庭、是から育っていく子供たちを見ようと、無邪気で何も知らない無垢な子供だろうと殺すのに躊躇はしない。 それが――俺。 例え父親とその部下がやっていることで、妻と子供たちは何も知らなかったとしても、玖城家に立てついたそれだけで俺の殺害動機になる。 玖城家を守る騎士の家系、それが俺の一族志澄家。 まぁどっちかというと本分は死霊使いって扱いにされているけれども。 「さて、泉が躊躇した理由もわかったし、そして俺の作戦も決まった。後は行動日時を決めて、さて、細かく色々思考しないとな」 一旦帰宅する。これ以上同じ場所にとどまっていて、警備員に目をつけられたら厄介だ。 貴族は一般市民を相手にするより遥かに面倒だ。 ならば一介の軍人を相手にする方が容易。 「あははははははっ、今のうちに最後の時でも楽しみなよ」 玖城家に――否、泉と郁に手を出す奴は何人たりともイカシハシナイ。 [*前] | [次#] TOP |