零の旋律 | ナノ

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 俺は泉を陥れようとしている存在の屋敷の前を人目につかないように眺める。
 ある貴族の屋敷。征永(ゆきなが)家――正面入り口には警備員は二人控えている。
 拳銃を構えて周辺に睨みをきかせている。けれど俺にとっては別に困難なことではない。警備員を二人殺すことくらい造作もない。
 けれど俺はそれをしない。強行突破はしない、そんなことをしたら意味がない。
 この国では殺人は合法ではない。殺人を犯せば正当防衛と認められない限りは罪人として、罪人の牢獄に送られる。その結末が待っているだけ。だから、俺は自分が殺したとわからないように相手を殺す。
 否、別に自分が犯人だとわかっても構わない。自分が犯人だと知れてもかまわない。
 何故なら、証拠がなければ自分のことを殺人犯として逮捕することは出来ない。
 だから俺は念入りに準備をする。

 周辺の建物に視線を廻らせて探す。別段外側から気にしなければならないことはない。
 貴族の広々とした部屋は、周辺の街々と隔離された空間となる。
 誰も自ら好んで“別世界”の住民と関わり会おうとはしない。関わる機会がなければ――


「さて、なら問題は警備のほうか」

 遠目からでもはっきりと見つけることが出来る。警備員だけで安心出来ない貴族はやたら家を防犯したがる。表向きは犯罪者から自分たちの身を守るため。勿論それもあながち嘘ではない。けれど実際防犯をする意味は“自らの犯罪を隠蔽するため”
 だから魔術師の総本山と言われる雅契家には他者が侵入出来ないように幾重にも結界が貼られている。勿論死霊使いとも言われる俺の家系もそうだ。
 征永の家の警備には最近出来た魔術無効化の警報術式がそこいら中に貼られている。
 中に入って何かしらの術を使用しようとしたその途端術式は発動する。
 そして中に入ったものの魔力を強制的に封印して使えなくしてしまうものだ。
 さらにそれだけではない。魔術無効化の警報術式は発動した際、周辺に結界を貼りめぐらせて、侵入者を逃がさないようにする。そこいらの術師ではまず解除不能のレベルの道具。
 それゆえに一個の値段自体高価なものだったが、そこは流石貴族と言うべきか、数個も設置している。

「さて、どうするか」

 一番厄介なものはそれ。
 そこいらの術師では解除不能だが、俺には別にその程度の防犯は無意味。だが、その術式を発動させるわけにはいかなかった。
 発動をさせてしまって、そこでそれが作動しなければ、そこいらの術師が犯人ではないこと。さらに魔術にたけたものの仕業であろうことがばれてしまう。魔術に精通した者となると、捜査範囲は絞られる。

 まぁ、簡単に名前を挙げるなら白き断罪第二部隊補佐官悧智とか、雅契家当主雅契廻命ならば魔術無効化の術式自体発動させることは不可能だろう。
 生憎俺はそこまで術に精通しているわけではない。俺が出来ることは術を発動させた後、それを跡形もなく“破壊”すること。


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