零の旋律 | ナノ

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「まぁ、泉君とは直接的に面識が早々あったものではないよ」
「なら、何故知り合い?」
「まぁ、知り合いってほど知り合いでもない。ただ、泉君のことを俺は一方的に知っているし。向こうも俺のことを一方的に知っているから、会話が成立するって処」
「はぁ?」

 榴華は首を傾げる。首を傾げたのは勿論榴華だけではない。
 郁までもが首を傾げているのが遠目に篝火にはわかった。
 会話の糸が全く読めない、罪人の牢獄支配者と泉の謎を深めるだけだった。

「一体どういった意味なんだよ」
「まぁ、お互い“有名”ってこと。榴華、泉君をこの街で歓迎してあげれば?」
「断る」

 榴華は首を横に振る。いつ柚霧に危険が降りかかるとも限らないこの男を野放しにするわけにはいかなかった。例え、それが罪人の牢獄の支配者の命令であったとしてもだ。
 榴華の心配ごとを見破ったのだろうか、銀髪は一度だけにっこりとする。ただ。その笑みは善人めいたものでなどはなかったが。

「大丈夫大丈夫」
「何がだ」
「柚霧か、榴華が泉君に危害を……正しく言えば、郁に危害を加えなければ泉君は柚霧に危害を加える真似はしないよ、ねぇ泉君?」

 銀髪は泉の方を振り返り確認を求める。

「まぁ、傷害罪が相手なら関係ないしな」
「なっ」

 榴華は驚愕の瞳で泉を見る。傷害罪、それは榴華が犯した罪のこと。
 この街にいてそのことを知っているのは柚霧だけ、ひょっとしたら銀髪は知っているのかもしれない。だが出会って間もないこの男に話したこともないし、この男が知れるような噂が流れていることもない。ならば何故知っている――疑問がより一層深くなる。

「まぁ、間接的にならあるかもしれないけれどな」
「それはどういう……」
「……俺は情報屋だ、対価を払えば俺が知りうる範囲でなら一部の例外を除きどんな情報でも教えてやる」

 榴華にだけではない、今この付近に聞こえるようにはっきりとした透き通る声で泉は告げる。

「……」
「信用していないな?」
「あたり前だ」

 いくら情報屋だからと、言われても納得できないものがある。

「情報屋は信用も商売だからな、ならばお前が俺が情報屋だと信頼できるように、今日は特別にある程度の情報までならただで教えてやるよ――榴華」

 榴華の前に泉は声には出さないで口だけを動かす
 “  ”その口の動きだけで榴華は泉が何を言っているのかが理解出来た。それは自分の名字。
 この街では言うことのない名字。
 それを知っていることすら、自分の情報能力を証明させる手段の一つだとでもいうのだろうか、榴華は心の中で悪態をつく。

 そして――

「わかったよ、ならば今現在この罪人の牢獄にいる各街の支配者たちの名前を挙げてもらおうか? それと特徴をだ」

 三日、この街にきてからその程度しか暮らしていないのならば、第一の街以外の罪人の牢獄支配者の存在を知れることなど容易ではない。そう考えて榴華は聞いた。
 だが、榴華の予想を泉はいとも簡単に覆す。


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