零の旋律 | ナノ

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「手伝うか?」

 朔夜が篝火に問う。篝火は接近戦を得意としていて術系統は不得意だ。というよりも使ったことを朔夜は見たことがなかった。しかし接近戦を得意としている篝火とは反対に朔夜は遠距離戦のみを得意としている。むしろ接近戦は大の苦手だ。遠距離からの援護ならば朔夜には自身があった。勿論雷を榴華に当てない自身もだ。
 それを含めて朔夜は榴華に聞こえるように声を出したのだが、榴華は返事をするつもりがないのか、する余裕がないのか帰ってこない。

「……」


 鞭が撓る。ターゲットは榴華に向けて。榴華は鞭をギリギリの処でかわそうとして止める。
 そして勢いがついている鞭を素手で掴む。

「!?」

 その行動に流石に泉も驚いたのか冷酷な瞳が僅かだが見開かれる。
 その隙を榴華は見逃さない。
 榴華は鞭を強く引っ張り泉を此方に引き寄せようとする。
 しかし、泉は微笑んだ。
 今まで柔らかく撓っていたはずの鞭がいつの間にか榴華の手に違和感を覚えさせる。
 榴華が見ていると、鞭だったはずのそれはいつの間に棒に変わっていた。

「なんだこれは!?」
「武器が鞭、とは限らないということさ」

 棒になったそれを泉は榴華の方に突き出すように力を込めた。
 榴華は咄嗟に身をひねってかわす。しかし、一度掴んだ相手の武器を離すような真似をしない。棒を握ったまま器用に一回転して身体の重心を変える。

「ちっ」

 思惑が外れたのだろう泉の軽い舌打ちが聞こえる。

「舐めるなっていっているだろう」

 榴華の真面目な声をこれだけ長い時間聞いているのは篝火は初めてだった。それだけ榴華が“真面目”であるということなのだろうか。そして“真面目”であらざるを得ないレベルの相手であるということ。

「舐めているのはそちらだろう?」

 相手はなおも不敵な態度を崩さない。
 そして棒だったものは、縮んだ。

「はぁ?」

 榴華の手からすり抜けるようにして、縮み、泉の手に戻った時には10p程度の黒い棒になっていた。

「伸縮自在ってわけか」
「そういことだな」

 泉は不敵に微笑む
 その冷徹な笑顔にどれ程の人が恐怖を抱くだろうか――
 嬉しさや喜びを知らないのではないかと思えるような冷たさ

「全く、本当に何者だ」

 一体どのような罪を犯してこの牢獄にやってきたのか、榴華には全く想像がつかない
その誰もが緊張しているその場に駆け足でやってくる人物が一人いた。泉と同じように全身を真っ黒で覆い隠し、本心を隠そうとするかのようなその黒さ。


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