Y 「何度言わせれば気が済む? 答える義理はないと」 二人の猛攻は終わる気配を一向に見せない。二人とも一歩も引かずに攻撃を繰り返す。 どちらも決定打を与えることなく、正確にいえば二人ともかすり傷一つついていない状態だ。 そんな状態を繰り返す。榴華が紫電を放っては泉が鞭でそれを相殺する。本来榴華の紫電は鞭で消せるような生半可の威力ではない。その紫電を易々と鞭をぶつかりあっただけで消せるということは、泉の鞭か泉自身が紫電とぶつかり合う時に何か術を付加している。 しかし術の発動した気配は榴華には一切感じ取れなかった。そこに泉の術のレベルの高さを肌で感じる。 「やりにくいなっ、本当に」 思わず独り言を呟いてしまう。今まで戦ったどんな相手よりもやっかいでそして異質な存在に。 朔夜と篝火も泉の戦闘能力に驚いているのだろう。 息をのんで二人の戦いを見ている。 「あいつ何者だよ」 朔夜の独り言に篝火は無言で頷く。一体何者なのか、そして泉という人物の真っ黒さに先ほどまで一緒に行動していた郁の姿を思い出す。 「あいつが……郁の兄か」 「だろうな、目が似ているし、第一黒すぎる」 いくら好きな色が黒だったとしてもだ、二人の恰好はあまりにも黒すぎた。黒以外全てを拒むような黒さ。真っ黒で誰にも心に隙を与えないようなガードを服装から醸し出しているようなそんな感じを感じ取っていた。 「郁は何をしているのだろうか」 「さぁ……、にしてもこれは手伝うべきか?」 「榴華なら負けねぇだろう」 「そうだろうけど……」 朔夜には一つの勝算があった。 それは榴華がまだ“本気”を出していないということ。榴華がこの街に来たことを朔夜は鮮明に覚えている。何せ街を壊そうとしたのだから、街を愛している朔夜にとってその出来事は何年たっても忘れられるわけがなかった。 「榴華が本気になれば……」 そう答えようとする朔夜だが、そこで何かが引っかかる。 それが何か朔夜にはわからなかったが、その引っかかりは篝火が解いてくれた。 「泉って野郎も本気じゃないだろ」 「……」 解けたと同時に朔夜は無言になる。 お互いが本気ではない。だからこそ、二人ともかすり傷一ついまだにないのだというのか。 つまり本気になった時の被害は甚大ではないということ。 [*前] | [次#] TOP |