零の旋律 | ナノ

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「なら、はいてもらうだけだ」

 榴華の周囲に紫電が舞う。
 それと同時に朔夜と篝火も一歩後ろに跳躍する。巻き込まれないように最低限の距離を取る。他の罪人と同じように遠くまで行かなかったのは何かあった時にスムーズに対処できるようにだ。
 榴華も朔夜と篝火の実力は知っている。早々簡単に戦いに巻き込まれるようなことはない、そして二人の実力の高さを信頼しているから、近くに残したままだ。

「私を吐かせることが出来るならな……眼中之針は消すだけだ」

 泉は不敵な笑みを浮かべる。その笑みは秀麗な容姿と相極まって相手に背筋を凍らせるような感覚を抱かせる。


「俺を舐めすぎだ、新入り」

 榴華の紫電が泉を襲う。
 しかし、泉は紫電を鞭の一振りで全て消し去る。その動作に榴華は驚愕で目を見開く。だが、榴華はそれで怯まない。泉に接近する。泉は見たところ鞭を使った中距離タイプ。
 榴華は紫電と体術を併用した接近戦を得意としている。遠距離からの紫電が消されるなら間合いに踏み込み接近戦に持ち込むだけ。榴華にとって今後柚霧に害を貸す危険がある相手を放置するわけにはいかなかった。
 榴華は左足を高く上げて、回し蹴りを遠心力をつけて泉に放つ。しかし泉はそれを屈んで交わす。
 榴華はそのまま遠心力に逆らわず一回転した後、踵おとしを泉がいる方に蹴り落とすが、泉は後方に一歩下がって避ける。紫電を纏った蹴りは地面を抉りコンクリートを欠けさせる。
 泉は少し間合いを取り鞭を左右に撓らせる。撓った鞭は婉曲を描きながら榴華に向かう。
 榴華はすれすれのところで踊るようなステップで鞭の攻撃を全て交わしきる。
 鞭が泉の手元に戻る前に、紫電の術を放ち、鞭で紫電を消せないように攻撃を繰り出すと、泉は紫電の攻撃方向を見破り易々と全ての紫電を交わす。対象を見失った紫電は空しく泉の後方にあった建物に当たり破壊音をとどろかす。


「(なんだっ……こいつ強い)」

 榴華は他の罪人たちより格段に強い相手に驚きを隠せなかった。
 罪人の牢獄に集まる罪人の大半は、罪人の牢獄に来てから強くなるものが多かった。 それこそ元から軍人であったとかいうことならば話は別だが。


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